【アンモニア】空気でパンを作れ!人類を救った化学者の錬金術

空気でパンを作るアンモニア 中1理科

化学者とは、現代の魔法使い、錬金術師です。


日々の研究の末に、気体液体個体を問わず、宇宙にある様々な物質を発見、分離、合成し、人類の望む通りの物質を自由に作り上げてきたからです。

錬金術師

今回も、素晴らしい魔法で人類を救った錬金術師(化学者)の話です。その錬金術師は、なんと空気からパンを作る方法を発見したのです!

空気からパンを作る

農業に不可欠な肥料、窒素

豊富な食糧こそ、人類の発展に最も大切なものです。食べ物なくして生命を維持することはできません。


そのための産業は、農業です。田畑を耕し、栄養を与えて食べ物を育てます。

農業の様子

そのときに必要なのは肥料。肥料がなければ米、小麦や野菜などの植物をたくさん育てることができません。


実は植物の成長には、窒素が不可欠です。植物は土の中の窒素を取り込むことによって、必要な栄養を作り出します。それに関しては、私たち動物も同じ。

植物の成長には窒素が必要

そこで、窒素の含まれた鉱石などを発掘し、それを加工したものが肥料として利用されていました。

窒素を含む鉱石を肥料にする
窒素を含むチリ硝石などが肥料になった

私たちが毎日食べているパンも小麦からできていますよね。つまり、パンも窒素がなければ作れないのです。

窒素が足りない!!

それまでの地球では、窒素が含まれた鉱石(チリ硝石)を肥料にして農業をしつつ、肥料がなくなったらまた採掘して輸入する……ということを繰り返していました。それで何の問題もありませんでした。

https://www.flickr.com/photos/rewbs/1990534476/

しかし、18世紀(1700年代)中頃から19世紀(1800年代)にかけて、イギリスから産業革命が始まります。


産業革命で急激に豊かになった世界は、爆発的なスピードで人口が増加します。

産業革命による人工爆発
産業革命きっかけで、地球人口は爆発した

しかし人口が増え続けるころの1898年、イギリスの化学者ウィリアム・クルックスが「このままじゃ肥料にする窒素が足りない!農業ができなくなり、人類が絶滅してしまうぞ!」と演説します。


人々はこの頃より、「食べ物が作れなくなる」ことに強い危機感を覚えます。

ウィリアム・クルックス
このままでは世界中の肥料は取り尽くされ、人類は餓死すると警告

わざわざ鉱山から窒素が含まれた物質を掘り出しているようでは、とても農業に必要な肥料に足りず、急増する人口を支えることができないのです。

空気の窒素からパンを作れ!

この人類の危機に化学者たちは、窒素は空気中の約80%を占める気体である。なら、その窒素から肥料を作ればいいじゃないか!」と考えます。


人類の餓死を予言したクルックスも、この方法を支持しました。

クルックスが支持した、空気から肥料を作る方法

確かに、窒素は空気中にほぼ無限にあります。鉱石の発掘なんかに頼らず、そこから窒素肥料が作れればとても便利です。


しかし、空気中の窒素をそのまま肥料に変えるなんて、とても難しい話です。空気から自由に肥料を取り出すようなものですよね。

クルックスは1898年の演説にて、


「化学者こそ、この絶滅の危機を救わなければならない!実験室を通してこそ、飢餓は解決できるのである!」


と語りました。いつの時代も、化学者は最高にカッコいい存在です。
: Science and Food Supply

空気でパンを作った男、ハーバー

「空気中の窒素から、肥料を作る」という不思議なことを実際に成し遂げてしまった人が、ドイツの化学者ハーバーです。

化学者ハーバー

ハーバーは研究の末、空気中の窒素からアンモニアという物質を作る方法を編み出します。

アンモニアは動物の尿(おしっこ)にも含まれる、ツンと刺激臭のする有毒な物質です。

アンモニア水
刺激臭のする、有毒なアンモニア水

アンモニアは窒素を含んでいるので、農業の肥料として活躍します。なので例えば、動物の尿も立派な肥料になりますよ!

もし空気中の窒素を使って、工場で大量のアンモニアが生産できれば……。世界中の人々にとって十分な肥料を作り出すことができます。


空気から直接に窒素を取り入れられない植物も、アンモニアからなら窒素を吸収できるからです。

アンモニアが肥料になる

彼はその研究アイディアを、ドイツの大きな化学メーカーBASF社に売り込みます。

BASF社
ドイツの化学メーカー BASF

BASFはハーバーの実力とやる気を認め、彼に多くの資金を提供して自由に研究させることにしました。


そこでハーバーは、BASFに勤務していた技術者のカール・ボッシュに出会います。

カール・ボッシュ

ハーバーはボッシュと共に、空気中の窒素からアンモニアを大量生産するための研究をスタートさせます。


工場の機械がうまく働かずに爆発したり、命の危険も伴う実験でしたが、2人は努力の末に、ついに空気中の窒素からアンモニアを大量生産することに成功します!

ハーバーボッシュ法
ハーバーとボッシュが作り上げた、空気中の窒素からアンモニアを作り出す方法

この2人が作り上げたアンモニア生成方法は、ハーバー・ボッシュ法と呼ばれ現代でも活用されています。


ハーバー・ボッシュ法で工場で大量生産したアンモニアを肥料にすることで、人類は食糧危機を回避することができたのです。


これこそ、ハーバーやボッシュが「空気からパンを作った男」と呼ばれる理由です。

とある研究によれば、なんと世界の食糧の40%ほどは、ハーバー・ボッシュ法で作られた化学肥料によって支えられているといいます。

ハーバー・ボッシュ法による化学肥料

※参考: Nitrogen and Food Production: Proteins for Human Diets

彼らがいなければ、地球の人口は今の半分以下だったかもしれません。

今日に食べたパンなどの食糧があるのも、ハーバーたちが空気からアンモニアを作る技術を発明したおかげです。


化学者が実験室を通して、人類を飢餓から救ったのです。まさに、クルックスが願ったとおりです。

アンモニアの簡単な作り方

ハーバー・ボッシュ法は、空気からパンを作る錬金術です。なのでハーバー・ボッシュ法はとても複雑です。


しかし専門家ではない私たちも、ある素材を使えば純粋なアンモニアを得ることができます
(さすがに、彼らのように空気から作ることはできませんが……)


ぜひ、人類を救ったアンモニアを作る方法を学んでおきましょう!

塩化アンモニウムと水酸化カルシウム

馴染みのない物質ですが、純粋なアンモニアを一番簡単に作るには、塩化アンモニウム水酸化カルシウムを反応させることです。

アンモニアを作る塩化アンモニウムと水酸化カルシウム

塩化アンモニウムは、食品添加物にも利用される物質です。もちろん、アンモニアが入っているのでこのまま化学肥料に使えますよ。


水酸化カルシウムは、石灰石から変化を続けてできた成分です。


この2つを反応させると、純粋なアンモニアを作ることができます。

アンモニアを “作る” というより、塩化アンモニウムから純粋なアンモニアを “取り出す” と言った方が正確です。

2つを同時に熱する

錬金術師(化学者)は、どんな物質もまず熱してみることから始めます。


その慣行にしたがい、塩化アンモニウム水酸化カルシウムを試験管内で混ぜて熱します。


すると、アンモニア(気体)が発生します。

塩化アンモニウムと水酸化カルシウムでアンモニアを発生させる
2つを併せて熱すると、純粋なアンモニアを発生させることができる

発生したアンモニアを、フラスコや試験管でキャッチしましょう。
(最初に発生した気体は、試験管内の空気が混ざっているので集めません。)

上方置換法でアンモニアを集める

これでアンモニア収集は成功です。

必ず、試験管は熱する方を上にして少し傾けてください。

試験管を傾けること

この実験では、アンモニアが発生すると共に、実は水も発生します。

水滴が発生する反応

水滴が発生した際、それが熱した試験管の底の部分に逆流してしまうと、ガラスが急激に冷やされて試験管がパリーンと割れてしまうおそれがあるからです。(ガラスは温度差に弱いのです)。

割れる試験管

アンモニアの性質

アンモニアはとても水に溶けやすいので、よくアンモニア水として管理されます。

アンモニア水
アンモニアは強い刺激臭がする、人体に有毒な物質

そんなアンモニアなので、水上置換法で集めることはできません!すぐに水に溶けて無くなるからです。

アンモニアは水に溶けやすい
水上置換法ではアンモニアを集めることはできない

しかし、空気よりも明らかに密度が小さい(軽い)ため、上方置換法で集めることができます。

アンモニアは上方置換法で集める

繰り返しですが、アンモニアは刺激臭のある取扱注意の気体です。


直接鼻で匂いを嗅ぐことはせず、手であおいで匂いを嗅ぐようにしてください。

アンモニアの水溶液は、アルカリ性を示します。したがって、水溶液は赤いリトマス紙を青くします。

アンモニア水はアルカリ性
アンモニア水はアルカリ性 【画像引用】
https://www.bbc.co.uk/bitesize/guides/z89jq6f/revision/1

アンモニアの噴水実験

「アンモニアは水に溶けやすい」ことを利用した、有名な噴水実験があります。


まず、以下のビデオを見てみてください!

アンモニアの噴水実験-中学 | クリップ | NHK for School
フラスコにアンモニアが入っています。スポイトの水をフラスコに入れると、アンモニアが水に溶けてフラスコの中の気圧が下がり、水が吸い込まれて噴水のようになります。

以下は、上のビデオの解説です。

アンモニアの「水に溶けやすい」性質を利用した噴水実験

フェノールフタレイン溶液とは、無色透明な液体です。


アルカリ性物質と反応すると、赤く変色します。

そのフェノールフタレイン溶液を水に混ぜておきます。これを赤く変色させるものがあれば、それはアルカリ性だということです。

まず、丸型フラスコにアンモニアを溜めておきます。

アンモニアをフラスコに溜める

その後、水を入れたスポイトを押して、水をフラスコの中に侵入させます。

スポイトからアンモニアの中へ水が侵入
アンモニアの空間へ水が侵入する

すると、アンモニアはとっても水に溶けやすいため、侵入した水にすぐに溶けていきます。

アンモニアは水に溶けやすい
アンモニアは水に溶けやすい!

すると、フラスコの中の気圧が下がります。気体のアンモニアが水に溶け入ってしまったからです。

フラスコ内の気圧が低くなる

フラスコ内の気圧が下がると、フェノールフタレイン水溶液を下に押し付けていた圧力が弱くなるので、水溶液は上昇していきます。

水が上昇する

吸い上げられた水溶液は、丸型フラスコで噴水を作ります。

水はフェノールフタレイン溶液が混ざっているので、アンモニアが充満しているフラスコ内で赤色に変化し、とてもキレイな噴水になるのです。

アンモニアの噴水実験の概要

もっと知りたい人のための参考文献

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