殺人兵器『塩素』の発見/開発と、ハーバー妻の自殺

殺人兵器『塩素』の発見と、ハーバー妻の自殺 中1理科

1700年代は、数々の気体が発見された、化学として革命的な時期となりました。

それぞれに面白いエピソードがあり、化学を学ぶことにワクワクさせてくれます。


しかし一方で、ちょっぴり悲しいエピソードを持つ気体もあります。


それが、今回に学ぶ『塩素』です。

シェーレが発見した、有毒な黄緑色の気体

酸素や窒素の発見に関わったスウェーデンのシェーレは、「自分が酸素の発見者だ!」などと威張ったりせずに、コツコツと研究を続ける控えめな人でしたよね。
(酸素の発見者の称号は、プリーストリに譲っている)

数々の気体を発見したシェーレ

彼はその才能により、もう一つの気体を発見しました。


ある日彼は、二酸化マンガン塩酸を混ぜ、それを熱して遊んでいました。

シェーレの塩素の発見

すると、黄緑色でキツイ刺激臭のする気体を取り出すことができました。これが、シェーレが発見した気体『塩素』です。

黄緑色の気体、塩素
https://woelen.homescience.net/science/chem/elem/elements/Cl/index.html

無色透明な二酸化炭素などとは違い、気体が黄緑色であることからも、少し特別な気体であることが分かります。


金属を溶かす塩酸から出てくる気体ですから、強力な毒性があります。


刺激臭が強く、瓶の中に動物を入れればすぐに死にますし、人間が吸ってしまえば喉や肺がやられ、高確率で死にます。


また、この黄緑色の塩素は、空気よりもとても密度が大きく、重いことが分かりました。空気の約2.5倍も重いのです。

塩素は密度が大きく、重い気体

毒ガスとしての塩素

シェーレが亡くなって100年以上が経つ1914年に、ヨーロッパで第一次世界大戦が始まります。


シェーレが発見した塩素は、その強い毒性がゆえに、残念ながら第一次世界大戦では「毒ガス」として使われることになってしまいます。


塩素を毒ガスとして化学兵器にすることを決めたのは、塩素を大量に保有していたドイツでした。

第一次世界大戦での塩素ガス
https://www.cbsnews.com/news/100-years-ago-first-gas-attacks-in-wwi/

塩素による毒ガスはとても協力で、ドイツは数分のうちに5000人の敵兵士を殺害できたといいます。最低でも敵の目をつぶせますし、助かった兵士も後遺症でそれ以上戦うことができません。


塩素は、化学兵器として最高の気体だったわけです。ドイツは強力な武器を手にしてしまいました。

毒ガスの開発者、ハーバー

その毒ガスは、誰が開発していたのでしょう?

ドイツが第一次世界大戦に勝利するため、毒ガスの開発者として任命した人物は、なんと空気からパンを作って人類を救った化学者、フリッツ・ハーバーでした。

フリッツ・ハーバー

ハーバーは、兵士を殺す毒ガスとして『塩素』を選びました。


塩素は毒ガスとして文句のない毒性を持っていますし、何より密度がとても大きな気体だったからです。


空気よりも2.5倍重い塩素は、ずっと地面に溜まります。地下に逃げても、塩素は沈んで追いかけていきます。


人間を殺すための気体としては、とても優秀なのです。

「化学兵器の父」ハーバー

対するフランスなどの国は、ガスマスクを使う他、塩素を無毒化する化学成分を使い、塩素ガスに対抗しました。


また、報復として毒ガス攻撃をやり返しています。

第一次世界大戦で、ガスマスクを被るドイツ兵
ガスマスクをつけるドイツ兵
By Bundesarchiv, Bild 183-R52907 / Unknown / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 de, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5368429
馬のためのガスマスク
馬のためのガスマスク
By Bjørn Christian Tørrissen – Own work by uploader, http://bjornfree.com/travel/galleries/, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=73929310

それにまた対抗する形で、ハーバーは新たな毒ガスを次々に作り出し、戦場に送り続けます。


この頃にハーバーたちが行った毒ガス研究は、第一次世界大戦だけでなく、この後の世界中の戦争で利用されるようになってしまいました。


その結果、ハーバーは「化学兵器の父」と呼ばれるようになっています。


同じドイツ出身の物理学者アインシュタインも、ハーバーに「君は天才的な頭脳を、間違った目的に使っている」と言いました。

アインシュタインとハーバー
ドイツの2人の天才科学者。左がハーバー、右がアインシュタイン

自殺により、ハーバーに抗議したクララ

ハーバーには、同じ化学者である妻がいました。クララ・イマーヴァールです。


彼女は、夫であるハーバーの毒ガス開発に強く反対していました。


「あなたは科学をねじ曲げている!」といって強く非難します。

クララ・イマーヴァール
ハーバーの妻、クララ

しかしハーバーは、


「強力な毒ガスの開発が進めば、戦争を早く終わらせることができる!」


という強い信念を持っており、クララの願いが届くことはありませんでした。(実際は、毒ガスの応戦のせいで戦争は逆に長引き、たくさんの死者を出すことになりました。)


その結果、第一次世界大戦中の1915年、クララは自宅でピストルで胸を撃ち、自殺してしまいました。

ハーバーのノーベル賞受賞

クララの自殺後も、めげずに毒ガス研究を続けたハーバーでしたが、ドイツは第一次世界大戦で敗北してしまいます。


当然、敗戦国のドイツで毒ガス開発を指揮したハーバーは、戦勝国から強い非難を浴びることになります。


しかし!窒素からアンモニアを作るハーバー・ボッシュ法の実績が認められ、彼はノーベル賞を受賞することになります。第一次世界大戦が終了した、1919年のことです。

左上が、ノーベル賞授賞式でのハーバーです。


ハーバーは、

  • 空気中の窒素からアンモニア肥料を作り出し、世界中の人を飢餓から救った化学者
  • 塩素を中心とした毒ガスを開発し、おそろしい化学兵器を作った化学者

という2つの顔を持つことになりました。


『アンモニア』『塩素』という2つの気体に深く関わり、喜びと悲しみの両方経験した化学者だったのです。

塩素の殺菌・漂白効果

シェーレが発見し、ハーバーが毒ガスとして応用した塩素ですが、もちろん人々の役にも立っています。

塩素の殺菌効果

塩素はとても強力な毒性を持っているので、殺菌作用に優れています。


身の回りでは、水道やプールの消毒のためによく使われています。塩素系消毒剤ですね。

消毒に使われるので、プールはたまに塩素のにおいがする
https://amzn.to/328uHXV

水道やプールなど水の中には、見えない病原菌がたくさん潜んでいます。そのままでは食中毒など、深刻な影響を及ぼす場合があります。


だからこそ、強力な殺菌作用のある塩素がとても役に立ちます。

感染症を防ぐため、水道やプールなど多くの人が利用する場所では水中の塩素濃度を計測することが法律で決まっています。


もし塩素濃度が低くなっていれば、病原菌が活発になってしまうからです。
参考: https://www.suzuken-ltd.co.jp/column-post/2018/11/06/568/

塩素の漂泊効果

また、強力な塩素はあらゆる物の色を落とす漂泊効果があります。


その特性を活かして、たくさんの塩素系漂白剤が販売されています。

塩素系漂白剤

まな板やシンク、風呂場の掃除に使ったり、洗濯に使います。強い漂泊作用があるので、色付きの服を洗うと色が落ちてしまうこともあります。

塩素系漂白剤はとても便利です。

しかし、もし酸性のものと混ざってしまった場合はとても危険。塩素がたくさん発生してしまうことがあるからです。

塩素系漂白剤の混ぜるな危険マーク

このような製品には必ず「まぜるな危険」と書かれています。塩素系漂白剤/洗浄剤とまぜてはいけないのは、

  • お酢
  • アルコール
  • 酸性の洗剤(トイレ用に多い)
  • 塩酸

などです。

これらが混ざれば、まさに毒ガスである塩素が発生してしまい、死ぬ可能性があります。


塩素系漂白剤を使うときは、換気扇を使いつつ、とにかく他のものと混ざらないよう注意して使いましょう。


もし塩素の刺激臭を感じたら、すぐにその場から離れて換気扇を回すこと!

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