1948年から、世界中の人々を今も魅了している、大成功を収めたキャッチコピーがあります。
それは…、『ダイヤモンドは永遠の輝き (A Diamond Is Forever)』。世界中の多くの人々が、一度は聞いたことがある言葉です。
ダイヤモンドはとても貴重な鉱石であり、特に大きな原石をキレイにカットした天然の高級ダイヤモンドには、数億円の値段がつくことも珍しくありません。
そういった超高級ダイヤモンドには個別の名前が与えられ、
- 女王様が年に数回だけ身につける装飾品
- 博物館の展示物
- 億万長者の宝石コレクション
…などとして、資産家の間で何年も伝説として語り継がれることになります。
レプリカ(作り物)も多く、一般人が本物を見る機会はほとんどありません。
しかし、なぜダイヤモンドは、世界中の人々を魅了する『永遠の輝き』を持っているのでしょうか?
それを知るための秘密は……、やはり『光の屈折』と『全反射』にありました。光を利用することで、ダイヤモンドの価値は高まっていくのです。
特に全反射は、
- ダイヤモンドに永遠の輝きを与える
だけにとどまらず、
- インターネットにより世界を一つに繋げる
という、信じられない魔術も持っているのです。
🔦ダイヤモンドと光の関係
今回の主役のダイヤモンドと光の関係を見てみましょう。
💎ダイヤモンドのダントツの硬さ
ダイヤモンドは、今から約2300年前、紀元前2~3世紀にインドで発見されたと言われています。
最初はその輝きと美しさよりもむしろ、“硬さ” に注目されました。約2000年前の古代ローマ人たちは、石や宝石を磨いたり、彫刻するためにダイヤモンドを使っていました。
ダイヤモンドは長らく、世界でも最も硬い物質だと言われてきました。宝石を彫刻するには、それより硬い物質でカットする必要があるため、ダイヤモンドの硬さには高い価値があったのです。
さて、その圧倒的硬さを持つダイヤモンド……。ではもし、光がダイヤモンドの中を通ったらどうなるでしょうか?
『【光の屈折】光も泳ぐと遅くなる!光が曲がる理由』では、各媒体での光のスピードを比較した表を掲載しました。
そのランキングに、ダイヤモンドを追加してみました👇
光の速さ | 進む場所 | 速さ(およそ) |
🛰真空(宇宙) | 秒速30万km | |
🌏空気中 | 秒速30万km(真空よりは遅い) | |
💧水中 | 秒速22.5万km | |
⚪️ガラス中 | 秒速20.5万km | |
💎ダイヤモンド中 | 秒速12.4万km |
なんと、真空だと秒速30万kmなのに、ダイヤモンドを通るときは秒速12.4万kmにまで遅くなっています。
ダイヤモンドは、成分がとてもギッシリ詰まっているからこそ、世界トップの固さを誇るのです。したがって、水やガラスよりもたくさん光を邪魔します。
その結果、光の速さが半分以下にまで遅くなってしまうわけです。
👇のGIF画像で、実際の光の速さの違いを表現しました。
光はダイヤモンドを通ると、とっても遅くなってしまいますね。
ダイヤモンドは光を強く屈折させる
『【全反射】ガラスも水も、鏡になる』では、光のスピードが遅くなるガラスの方が、屈折率が大きくなる(よく屈折する)ことを学びました。
光が、水とガラスとダイヤモンドそれぞれを進むのときのスピードは以下のようになります。
- 水 ( 22.5万km/秒 )
- ガラス ( 20.5万km/秒 )
- ダイヤモンド ( 12.4万km/秒 )
当然、ダイヤモンドは光をとても屈折させることになります。
なぜなら、いくら宇宙一の速さを誇る光でも、ダイヤモンドの中は進みにくすぎて、強く足を取られてしまうからです。
もちろん、屈折と同時に、光は反射していることも忘れないで。
反射角は、水であろうとダイヤであろうと変わりません。常に反射の法則が成り立ちます。
ダイヤモンドと全反射
ここから、ダイヤモンドが永遠の輝きを放つ理由に迫ります。
キーワードは『全反射』です。よく思い出してください。
ダイヤモンドと屈折率
ダイヤモンドは、地球上でトップクラスの屈折率を誇る物質でしたよね。
これは、「ダイヤモンドは全反射しやすい」ことを意味します。👆の図を見てください。ダイヤモンドの方は、水に比べて早く屈折の限界が来ますよね。
実際、水とダイヤモンドでは、全反射を起こす入射角が全く違います。
- 水… 入射角が約49°以上なら全反射する
- ガラス… 入射角が約42°以上なら全反射する
- ダイヤ… 入射角が約25°以上なら全反射する
ダイヤモンドの場合、入射角が25°以上になるだけで、全ての光は全反射してしまいます。
永遠の輝きの正体は、全反射だった!
ダイヤモンドは屈折率が大きく、すぐに全反射しやすい。
だからダイヤモンドに入った光は、ダイヤモンド内で全反射を繰り返してから外に出てきます。
もし、これがダイヤと同じ形のガラスだったら?全反射がなかなかできず、反射のうちにたくさんの光が逃げていきます。
ダイヤモンドは全反射により、強い光を空気中に返すことができるのです!
ダイヤモンドからは強い光が目に届くため、あんなにもまばゆい永遠の輝きを誇っているのですね。A Diamond Is Forever!!!!
ダイヤモンドの形の中でも、最も全反射が起こりやすく、輝きやすいカット方をブリリアント・カットと言います。
これは、「少しでも全反射し、輝くように」と数学者が計算して考え出した形です。ダイヤモンドの形で似たようなものが多いのも、それが理由です。
ダイヤモンドの圧倒的屈折率を利用し、永遠の輝きを与える。数学と物理学こそ、ダイヤモンドの価値を高める魔法だったわけです。
今まで散々ダイヤモンドを褒め称えましたが、一般人が購入できるような普通のダイヤモンド(婚約指輪に使われるようなもの)には、宝石としての大きな価値があるわけではありません。
🌏世界を一つに繋げる光ファイバー
全反射は、ダイヤモンドを輝かせるだけでなく、世界を一つに繋げる魔法にもなります。
インターネットを使えば世界と通信できる
例えば、今日本に住んでいても、アメリカのNASAのウェブサイトに訪れ、たくさんの宇宙の美しい写真を見ることができます(これらの写真は、アメリカのパソコンに保存されています)。
また、海外の人とメールやチャットするのも一瞬で完了しますよね。
インターネットがあれば、地球上の遠く離れた場所でも一瞬でコミュニケーションをとることができます。つまり、インターネットは世界を一つにしているのです。
よく考えれば、インターネットって魔法のようですよね。昔の人が見れば、超能力のテレパシーだと思うはず。
このインターネットでも、全反射が大活躍しています。
海底ケーブルで、光を世界中に届けろ!
- アメリカNASAの写真にも一瞬でアクセスできる
- 地球の裏側に住む友達に、一瞬でメッセージが送れる
これら不思議な魔法は、いろんな情報を光に変換して届けることで実現しています。
具体的には、インターネット通信のために使うチューブをつなぎ、そこに光を発射して相手に届けているのです。光は速いので、地球の裏側にもすぐに届きます。
このチューブは主にどこにあるのかと言うと……、海底ケーブルとして、海底に張り巡らされているのです!
このケーブル網、すごいと思いませんか?
この中で光を走らせることで、地球上のどんな場所とも通信できるようにしているのです。
https://commons.wikimedia.org/wiki/User:David.Monniaux
「光を使って、離れた場所と通信する」ことを、光通信といいます。
光ファイバーを使い、全反射で強い光を届ける
ここで、全反射の出番です。
当然、光がケーブルの中を反射していくと、光は屈折して外に出ていってしまうため、光が徐々に弱くなってしまいます。
これでは徐々に光が消えてしまい、遠い国へと通信ができません。
そこで、光ファイバーを使います。光ファイバーは、光が中をずっと全反射で進むように工夫されている伝送経路です。
光ファイバーの中で全反射を繰り返すことにより、世界中のどんなに遠い場所へでも、強い光を届けて通信できるように考えられています。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Laser_in_fibre.jpg
もちろん、この光ファイバーは建物から海底ケーブルまで、私たちの身の回りで常に利用されています。
もはや私たちは、インターネットなしで生活することは不可能です。この便利な生活は、全反射という魔法により実現しているんですね。
現代の魔法とは、物理学のことなのです。
📚おすすめ参考文献
📖参考になった書籍
・ダイヤモンドの科学―美しさと硬さの秘密 (ブルーバックス)
ダイヤモンドの魅力を、多角的に知りたい人にはピッタリの本。
ダイヤモンドなんてただの光る石で、そんなものを欲しがっているのは強欲な人間だけだ……なんて思っていませんか?それは甘い。
個別名がつくほどの高級ダイヤモンドは、数百年の間の数々の歴史的大事件を目撃し、人間の欲望の渦にも負けずに輝き続けたストーリーを持っています。それに加え、ダイヤモンドに世界一の輝きを支えるたくさんの科学的事実……。
宝石店やテレビで見るダイヤモンドを超えた、もっと深い世界を覗いてみましょう。全て理解するには、高校レベル以上の科学的基礎知識が求められますが、難しい所は読み飛ばしても面白いですよ。
🍿参考になった映画
ダイヤモンドは、アフリカなど途上国の鉱山で採掘されることが多く、採掘されたダイヤは先進国で高く売れます。
そのため、ダイヤモンド産出国は鉱山を巡って内戦が絶えず、ダイヤモンドのために殺し合いが行われ、たくさんの血が流れました。人を殺してダイヤモンド鉱山を支配すれば、それを売って武器を買い、また戦争に強くなれるからです。
この映画では、実際に問題となった、アフリカのシエラレオネの『紛争ダイヤモンド』をテーマに、数億円はくだらない一つのピンク・ダイヤモンドを命をかけて追いかける姿が描かれています。
先進国の私たちが能天気にダイヤモンドに酔いしれている裏側で起こっていた、シエラレオネの悲劇について学べる、ハッとする映画です。やっぱりディカプリオはカッコいいよ!
📱参考になったページ
・ダイヤモンドはもはや世界で最も硬い物質ではない 今もまだ「ダイヤモンドは世界一硬い物質」と考える人はいますが、厳密には天然鉱物でもダイヤ以上の硬さを持つ物質がある可能性も。ただ、広く工業利用されるのは今後もダイヤモンドでしょうし、世間一般での「世界一硬い物質」の王座はしばらくはダイヤモンドのままかも?
・Some Folklore and history of diamond ダイヤモンドの歴史や逸話をまとめた論文。英語が読めるなら非常に面白いです。JSTORにある英語論文ですが、アカウント作れば無料で読めます。
・TOP 10 MOST EXPENSIVE DIAMONDS 2020 伝説のダイヤモンドたちの値段ランキング。
・The True Story of the Koh-i-Noor Diamond—And Why the British Won’t Give It Back 伝説のダイヤモンド『コーイヌール』についての話。へぇ。
コメント