【錬金術入門③】不老不死を実現する神の技術『蒸留』

蒸留 中1理科

この世界的に有名な絵は、イタリアの天才芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチが1498年に3年かけて完成させた超大作、『最後の晩餐』です。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』
レオナルド・ダ・ヴィンチ
レオナルド・ダ・ヴィンチ
1452-1519

キリスト教の主イエス・キリストが処刑される前夜、弟子とともに取った最後の夕食の様子が描かれています。この様子は、キリスト教徒のバイブル『新約聖書』に詳しい記載があります。


イエスは処刑される前日の最後の晩餐で、「これは私の体である」と言ってパンを弟子に分け与えます。

一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「取って食べよ、これはわたしのからだである」。

マタイによる福音書26:26

さらに、「これは私の血である」と言ってぶどう酒(ワイン)の杯を弟子に与えます。

また杯を取り、感謝して彼らに与えて言われた、「みな、この杯から飲め。

これは、罪のゆるしを得させるようにと、多くの人のために流すわたしの契約の血である。

マタイによる福音書26:27 , 26:28

キリストは最後の晩餐で、パンとワインを自分の体として表現したのです。

聖餐でのパンとワイン

新約聖書にこの最後の晩餐の様子が描かれているため、キリスト教ではパンを食べ、ワインを飲むことを神聖な儀式として行うようになりました。


そんな『最後の晩餐』を描いた絵画では、やはりダ・ヴィンチの絵が最も有名ですが、他にも様々な画家が描いています。その中でも、1955年にサルバドール・ダリが描いたものは素晴らしい作品だと思います。

ダリ『最後の晩餐』
『最後の晩餐』サルバドール・ダリ
イエスの目の前には赤ワインがある

ダリは、何よりもワインを際立たせて描いています。中心にいるイエスが日没の光に照らされ、弟子は頭を垂れて控えめに描かれています。


この大きな絵のスポットライトをイエスとともに独占しているのは、彼の目の前にある鮮やかな赤ワインです。ワインが主役のように感じられるし、ワインが単なる飲み物を超えて、神に通じる神聖なもののように描かれています。


現在、キリスト教を信じる人は世界に20億人を超えると言われます。キリスト教の拡大と同時に、当然「ワインは大切な飲み物だ!」との考え方も広まります。『最後の晩餐』での描写が、ワインが世界中の人々に愛されるきっかけとなったのです。

🧪 不老不死の薬を作れ!錬金術師の挑戦

歴史上、権力者や王様は裕福に暮らし、欲しい物全てを手に入れてきました。


しかしたった一つ、

  • 💰 どんなに大金を積んでも
  • 🦴 どんなに奴隷に働かせても

手に入らなかったものがあります。それは、『不老不死の薬』。いくら贅沢の限りを尽くした権力者でも、いつか絶対に死にます。だからこそ権力者たちは、「死にたくない。不老不死の薬を飲んで、この栄華と繁栄を永遠に味わいたい」と強く願いました。


しかし、不老不死の薬なんて、どんな材料を使えば完成するのか分かりません。

月宮迎
平安時代の『竹取物語』では、かぐや姫が月に帰るとき、不死の薬を残していく

そこでヒントになる飲み物といえば….., そう、キリスト教での神聖な飲み物ワインです。ワインは神聖な飲み物だし、何より健康によく気分を明るくさせてくれます。このワインを材料にすれば、不老不死の薬が作れるかもしれません!


今回は、錬金術師がワインを材料にして不老不死の薬を作るときに使った最高技術、『蒸留』について学びます。


不老不死をも実現する、神の技術の最高峰を学びましょう!

🍷 純粋なお酒を求めて

前回は混合物の状態変化グラフを学びました。

しかし、「へ〜、こんなグラフになるんだ」で終わってはいけません。一見普通のこのグラフを、不老不死の薬の作り方に応用してしまうのが科学者(化学者)、錬金術師のすごいところです。


では、不老不死の薬の話をするその前に、日常生活で身近な “お酒” について学んでみます。不老不死とお酒は関係が深いのです。

お酒

お酒の代表、醸造酒

例えば、よくコンビニやスーパーで見る代表的なお酒と言えば、

がありますよね。

スパークリングワイン
シュワシュワのスパークリングワインシャンパンはその中でも厳しい基準がある

🍻ビールや🍷ワインの歴史はとっても古く、人類は、3000~4000年前には飲み始め、楽しんでいたようです。


🍶日本酒も2000~3000年前から飲まれ始めたと言われます。人類は遥か昔から、お酒が大好きなのです。

シュメール人のビール領収書
約4000年前にあった、ビールの領収書。

🍻ビール、🍷ワイン、🍶日本酒は、全て「醸造酒(じょうぞうしゅ)」と呼ばれます。


醸造酒とは、原料に含まれる糖分を、微生物(酵母)が食べて発酵させることでエタノール(エチルアルコール)を作り出してできるお酒です。例えばブドウジュースは甘いですが、ワインになると甘みが少なくなっています。それは、糖分がエタノールに変わっているからです。


糖分と酵母があれば自然にお酒はできるので、ヒトが猿であった何百万年も前からお酒は存在したはずです。

醸造酒たち
酵母という微生物がお酒の命

人類は太古の昔から、「お酒を適度に飲むと、とても気持ちよくうっとりした気分になる」ことに気づいていました。理性を失って開放的になるので、一緒にお酒を飲めば部族同士で簡単に仲良くなることができます。


この酔っ払う感覚を味わえるため、キリスト教に限らず、「お酒を飲むと神様に近づけるのだ」と信じる人々がたくさんいました。

ワインの神デュオニュソスとバッカス
ギリシャのデュオニュソスとローマのバッカス。特にデュオニュソスは人を狂わせ、平気で殺す怖い神である

より純粋なお酒を作れ!

昔は、「なぜお酒ができるのか?」という詳しい仕組みなどは分かっていませんでした。したがって、ワインなどのお酒は自然が作り出す不思議な飲み物であり、神の恵みであると考えられていました。


そこで一部の錬金術師たちは「神の恵みであるお酒を、もっと純粋な液体にできれば、不老不死の薬になるのではないか?」と考えます。

蒸留により不老不死の薬を作る

実は、酵母(微生物)はたしかにアルコールを生んで醸造酒を作り出すのですが、アルコール濃度が一定以上になると、酵母自体が死んでしまうのです。


つまり、どう頑張っても自然界では、一定以上のアルコール濃度の酒を作ることはできません。せいぜい20%くらいが限界です。

醸造酒アルコール濃度
🍻ビール約5%
🍷ワイン約12%
🍶日本酒約15%

しかし、20%では足りません。人類は、より神に近づくための「純粋なエタノール(エチルアルコール)」を求め始めます。

日本で売られているビールのほとんどはアルコール度数5%程度ですが、限界まで高めると20%程まで高めることができます。

🧐 ろ過や再結晶では、純粋なお酒が取り出せない

例えば、ワインには水とアルコール以外にも、ブドウなどたくさんの成分が含まれています。しかし今回では、単純に考えるため「水とエタノールの混合物」として考えます。


ワインを「水とエタノールの混合物」と考えるならば、ワインから純粋なエタノールだけを抜き出すことができれば、神に近づく「純粋なエタノール」を得ることができます。

ワインからエタノールだけを抜き出す
ワインには、水とエタノールが混ざっている

しかしエタノールは普段、液体です。

水とエタノール100mlずつ
『1+1は 2 ではない!デモクリトスが見抜いた水溶液の本質』

液体と液体の混合物から、片方の液体を取り出せるでしょうか?


例えば、ファミレスのドリンクバーでオレンジジュースとリンゴジュースを混ぜた後、オレンジジュースだけを取り出すことができるでしょうか?できませんよね。

ドリンクバー
ドリンクバーでは必ずジュースを混ぜるやつがいる

それと同じく、ワインから液体のエタノールだけを取り出すことは一見不可能です。


混合物から純粋な物質を取り出す錬金術師の技術と言えば、最初にろ過を学びましたよね。

デンプンと水が混ざった液体をろ過する図
水とデンプンの混合物なら、ろ過で取り出せる

しかし、これは固体と液体を分離するのには活躍しますが、水とエタノールのように、液体と液体を分離するためには使えません。両方の液体がろ紙(フィルター)を通ってしまうからです。


その次の錬金術師の技術では、再結晶も学びました。

再結晶による分離で、混合物から純粋な物質を取り出す

しかしこの場合も、あくまでも「ミョウバンに他の物質も混ざっている」など、固体と固体が混ざっているときに便利な技術でした。

純粋なミョウバンを取り出す

しかし今回のように不老不死の薬を作るためには、「水とエタノール」のように、液体液体の混合物から、純粋な液体を分離しなければなりません。

⚗️ 錬金術師の禁断の技術『蒸留』

自然界(植物と微生物)では決して作ることができないような、もっとアルコール濃度が高い「純粋なお酒」を作り出すことは、やはり不可能なのでしょうか?


しかし、錬金術師は古代より伝わる蒸留(じょうりゅう)と呼ばれる技術に目をつけました。

蒸留を可能にするレトルト
イスラムで発達した蒸留器

蒸留とは、液体同士の混合物の沸点の違いを利用し、純粋な物質を取り出す方法です。


蒸留は、道具さえあれば簡単に行うことができます。

蒸留の方法

前回では、ワインを例に混合物の状態変化グラフを学びました。

今回も、水とエタノールの混合物であるワインを例にして蒸留の仕組みを学びます。


錬金術師はどうやって、神の恵みのワインをもっと純粋なお酒にしたのでしょうか?

ワインを熱する

まず、ワイン(水とエタノールの混合物ともいえる)を熱します。


もちろん、急な沸騰(突沸)を防ぐため、沸騰石を忘れないで。

ワインを熱する

🍷ワインのエタノールだけが沸騰を始める

熱し続けて、ちょうどワインが78℃あたりになると、どうなるでしょうか?

エタノールだけが沸騰始め

混合物のグラフで学んだように、水は沸騰しないものの、エタノールの沸点は78℃なので、エタノールだけが沸騰を始めますよね。

78℃に達してエタノールだけ沸騰

78℃からどんどん温度が上昇していきますが、水の沸点の100℃に達するまでは、エタノールだけがどんどん沸騰して気体になっていくことになります。

エタノールだけが沸騰する時間

100℃になるまで、水は沸騰しません。

気体になったエタノールを凝結(凝縮)させる

ここからが、錬金術師の素晴らしい知恵です。気体となったエタノールは、枝付きフラスコを上昇し、冷却器を通ります。


管に設置された冷却器には冷水が流れているので、そこを通るときにエタノールの気体は冷やされます。

冷却器で冷やされるエタノールの気体

エタノールの沸点は78℃ですから、気体が78℃より冷えれば気体ではなくなります。つまり、エタノールの気体は凝結(凝縮)し、液体のエタノールに戻ります。

凝結して液体に戻るエタノール

より純粋なエタノール(アルコール)が手に入る

その結果、ワインからより純粋なエタノール(アルコール)を手に入れることができました!!当然、アルコールはもともとのワインよりも濃い、「より純粋なお酒」となっています。

蒸留により、より純粋なエタノールを手に入れる

このように、混合物の沸点の違いを利用し、沸騰と凝結により純粋な液体を取り出す錬金術師の技を、蒸留と呼ぶのです。

蒸留の仕組み

自然界で酵母に任せては実現できなかった「より純粋なお酒」は、錬金術師によって誕生しました。液体と液体の混合物を分離。

蒸留をして、エタノール(エチルアルコール)の気体だけを集めたとしても、100%純粋なエタノールになることはありません。


なぜなら、水は沸騰していなくても蒸発しているからです。

完全に純粋なエタノールを得ることは難しい

もっと純度を高めたい場合は、蒸留して得たエタノール濃度の高い液体を、さらに蒸留し、またそれを蒸留し……と繰り返すことが方法の一つです。

🥃 錬金術師が作る蒸留酒は『生命の水』

  • 🍻ビール
  • 🍷ワイン
  • 🍶日本酒

など、微生物が糖分を食べてアルコールを作る基本的なお酒は醸造酒(じょうぞうしゅ)です。


それに対して、蒸留により完成した、もっと純度の高いお酒を蒸留酒といいます。それぞれ、

  • ビールを蒸留したもの…ウイスキー
  • ワインを蒸留したもの…ブランデー
  • 日本酒を蒸留したもの…焼酎(泡盛)

と考えることができます。蒸留器が広まるのは9世紀以降なので、蒸留酒の出現は醸造酒よりもずっと遅いです。

醸造酒と蒸留酒
醸造酒を蒸留して純粋にしたものが蒸留酒

ウイスキーは市販ビールを蒸留して作っているわけではありませんし、「ビールを蒸留したものがウイスキー」と簡単に言えるわけではありません。


しかし原料と製造方法としては、「ウイスキーはビールを蒸留させて作る」と考えることができます。

参考: ビールを蒸留するとウイスキーになり、ワインを蒸留するとブランデーになると聞いたのですが本当ですか?

原料醸造酒蒸留酒(醸造酒を蒸留)
ビール(約5%)ウイスキー(約40%)
葡萄ワイン(約12%)ブランデー(約40%)
日本酒(約15%)焼酎(約25%)

アルコール度数を見れば、蒸留酒が「純粋なお酒」であることは一目瞭然です。
※焼酎は、米よりも芋や麦で作る方が多い

蒸留酒は、人類滅亡を救う『生命の水』

14世紀、世界中でペスト(黒死病)が大流行し、ヨーロッパ人口の約3分の1が死亡するほどの人類滅亡の危機にありました。


ペストは一度かかれば助かる見込みが少なく、高確率で死んでしまう恐ろしい病気です。

ペストで死ぬ人々
ヨーロッパ中で死体があふれる

そんな死の恐怖に怯えた人々は藁にもすがる思いから、「純粋なお酒である蒸留酒は、”生命の水” である。これを飲めば、ペストにかからない!」という噂を信じ切るほどになり、盛んに求められました。

ウイスキー
ウイスキー。蒸留酒は生命の水

死から逃れ、神に近づくための薬として、蒸留酒は世界中に広まったのです。蒸留酒に様々な薬草を加え、さらなる不老不死の薬を開発しようと考える錬金術師もたくさん現れます。

  • 錬金術師の不老不死に対する熱意
  • イスラムの錬金術師が開発した蒸留器

が、今のお酒文化の一部を生み出したというわけです。

アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバ。蒸留酒に薬草を加えることで、たくさんのお酒を作ったスペインの錬金術師
アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバ。蒸留酒に薬草を加えることで、たくさんのお酒を作ったスペインの錬金術師

20歳を超えて、なおかつお酒に弱くない体質であれば、

  • ウイスキー
  • ブランデー
  • 焼酎

などアルコールの強い蒸留酒を、不老不死をもたらす「生命の水」としてじっくり味わってみましょう。現代の錬金術師たち(お酒メーカー)が、丹精を込めて作っているはずです。


もちろん、強いアルコールが苦手なら、ソーダや水などで薄めて飲めば十分に楽しめますよ。

ハイボール
ウイスキーに炭酸水を加えるウイスキー・ソーダを「ハイボール」という。
写真はサントリー

現代の科学では原則的に、お酒は「不老不死どころか、健康に悪い」ことが分かっています。大人になっても、できれば飲まないようにしましょう。


したがって、醸造酒であれ蒸留酒であれ、お酒は一気に飲んだり、絶対に他人に強要してはいけません。無理な飲酒で毎年何人も死んでおり、許されることではありませんし、あまりにも恥ずかしいことです。

ウォッカ
特に、ウイスキー、ウォッカやジンなどの蒸留酒は絶対に無理に飲んではいけない

錬金術師が苦心した歴史を学び、敬意を払っているのならば「お酒は味わって楽しむもの」という大原則を絶対に忘れず、大人のお酒の楽しみ方を覚えましょう。


もちろん、20歳になってから。未成年の飲酒は脳を壊し、発達を阻害します。

📚 おすすめ参考文献

📖 参考になった書籍

知っておきたい「酒」の世界史 (角川ソフィア文庫)

現代の酒文化は数千年の歴史とともに成長してきたものであるため、世界史を理解するために「酒」をテーマに学べるのはよい機会です。


難しいこともなく読みやすい本ですが、お酒に関する豊富なエピソードと十分な背景説明があります。お酒と歴史が好きな人の娯楽として、ゆっくりお酒を飲みながら読んでみると楽しめそうです。

ワインの世界史 自然の恵みと人間の知恵の歩み (日経ビジネス人文庫)

ワインと世界史が好きな自分には最高の本でした。

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