【錬金術入門③】不老不死を実現する神の技術『蒸留』

蒸留 中1理科

現代社会の発展は、物質の性質を完全に明らかにすることで成立しています。


身近なものでは、

など、魔法のような科学(化学)を今まで学んできました。これら全て、

  1. 世の中の物質の性質を研究して、解き明かす
  2. それを応用し、思い通りに利用する

この2つのステップを踏むわけです。


そのためには、いろんな物が混ざった混合物から純粋な物質を取り出すことが大切です。これこそ、錬金術師(化学者)の知恵と技術!

世界を動かした錬金術師たち

これまで、錬金術師たちが

  • 💎金や宝石
  • 🧪不老不死の薬

などを作り出すために試行錯誤して編み出した「純粋な物質を取り出す」技術は2つ学びました。

  • 『固体と液体』の混合物から純粋な物質を取り出すろ過
  • 『固体と固体』の混合物から純粋な物質を取り出す再結晶

です。

しかし、ろ過と再結晶なんてただのウォーミングアップ。


なんたって今回は、錬金術師が不老不死の薬を作るときに使った最高技術、『蒸留』について学ぶからです。不老不死の薬ですよ。


凡人どもよ、不老不死をも実現する神の技術を学べ!!

錬金術の神ヘルメス
錬金術の神ヘルメス

純粋なお酒を求めて

前回は混合物の状態変化グラフを学びました。

しかし、「へ〜、こんなグラフになるんだぁ」で終わってはいけません。一見普通のこのグラフを、不老不死の薬の作り方に応用してしまうのが科学者(化学者)、錬金術師のすごいところです。


では、不老不死の薬の話をするその前に、日常生活で身近な “お酒” について学んでみます。不老不死とお酒は関係が深いのです。

蒸留技術を使うウイスキー

お酒の代表、醸造酒

例えば、よくコンビニやスーパーで見る代表的なお酒と言えば、

がありますよね。

スパークリングワイン
シュワシュワのスパークリングワインシャンパンはその中でも厳しい基準がある

🍻ビールや🍷ワインの歴史はとっても古く、人類は、6000年前(紀元前4000年)には既にビールを楽しんでいたようです。


🍷ワインも一説によると8000年ほど前(紀元前6000年)から人類は楽しんでいたようです。


🍶日本酒は2000~3000年前であると言われます。人類は遥か昔から、お酒が大好きなのです。

シュメール人のビール領収書
約4000年前にあった、ビールの領収書。

🍻ビール、🍷ワイン、🍶日本酒は、全て「醸造酒(じょうぞうしゅ)」と呼ばれます。


醸造酒とは、原料に含まれる糖分を、微生物(酵母)が食べて発酵させることでエタノール(エチルアルコール)を作り出してできるお酒です。


糖分と酵母があれば自然にお酒はできるので、ヒトが猿であった何百万年も前からお酒はあったはずです。

醸造酒たち
酵母という微生物がお酒の命

人類は太古の昔から、「お酒を適度に飲むと、とても気持ちよくうっとりした気分になる」ことに気づいていました。理性を失って開放的になるので、一緒にお酒を飲めば部族同士で簡単に仲良くなることができます。


この酔っ払う感覚を味わえるため、人々は「お酒を飲むと神様に近づけるのだ」と信じていました。

ワインの神デュオニュソスとバッカス
ギリシャのデュオニュソスとローマのバッカス。特にデュオニュソスは人を狂わせ、平気で殺す怖い神である

キリスト教では、特に血のように赤いワインは「イエスの聖なる血」とされ、神聖な飲み物であったのです。

より純粋なお酒を作れ!

お酒とは、神様に近づけるような、自然が作り出す不思議な飲み物です。


そこで一部の錬金術師たちは「神の恵みであるお酒を、もっと純粋な液体にできれば、不老不死の薬になるのではないか?」と考えます。

蒸留により不老不死の薬を作る

実は、酵母(微生物)はたしかにアルコールを生んで醸造酒を作り出すのですが、アルコール濃度が一定以上になると、酵母自体が死んでしまうのです。


つまり、どう頑張っても自然界では、一定以上のアルコール濃度の酒を作ることはできません。せいぜい20%くらいが限界です。

醸造酒アルコール濃度
🍻ビール約5%
🍷ワイン約12%
🍶日本酒約15%

人類は、より神に近づくための「純粋なエタノール」を求め始めます。

錬金術師の偉大な知恵『蒸留』

自然界(植物と微生物)では決して作ることができないような、もっとアルコール濃度が高い「純粋なお酒」を作り出したのは……、もちろん錬金術師です。


彼らは、蒸留(じょうりゅう)と呼ばれる技術を使ってこれを実現しました。

蒸留を可能にするレトルト
イスラムで発達した蒸留器

蒸留とは、混合物の沸点の違いを利用し、純粋な物質を取り出す方法です。


蒸留は、道具さえあれば簡単に行うことができます。

蒸留の方法

前回では、ワインを例に混合物の状態変化グラフを学びました。

今回も、水とエタノールの混合物であるワインを例にして蒸留の仕組みを学びます。


錬金術師はどうやって、神の恵みのワインをもっと純粋なお酒にしたのでしょうか?

ワインを熱する

まず、ワイン(水とエタノールの混合物ともいえる)を熱します。


もちろん、沸騰石を忘れないで。

ワインを熱する

🍷ワインのエタノールだけが沸騰を始める

熱し続けて、ちょうどワインが78℃あたりになると、どうなるでしょうか?

エタノールだけが沸騰始め

混合物のグラフで学んだように、水は沸騰しないものの、エタノールの沸点は78℃なので、エタノールだけが沸騰を始めますよね。

78℃に達してエタノールだけ沸騰

78℃からどんどん温度が上昇していきますが、水の沸点の100℃に達するまでは、エタノールだけがどんどん沸騰して気体になっていくことになります。

エタノールだけが沸騰する時間

100℃になるまで、水は沸騰しません。

気体になったエタノールを凝結(凝縮)させる

気体となったエタノールは、枝付きフラスコを上昇し、冷却器を通ります。


管に設置された冷却器には冷水が流れているので、そこを通るときにエタノールの気体は冷やされます。

冷却器で冷やされるエタノールの気体

エタノールの沸点は78℃ですから、気体が78℃より冷えれば気体ではなくなります。つまり、エタノールの気体は凝結(凝縮)し、液体のエタノールに戻ります。

凝結して液体に戻るエタノール

より純粋なエタノール(アルコール)が手に入る

その結果、ワインからより純粋なエタノール(アルコール)を手に入れることができました!!当然、アルコールはもともとのワインよりも濃い、「より純粋なお酒」となっています。

蒸留により、より純粋なエタノールを手に入れる

このように、混合物の沸点の違いを利用し、沸騰と凝結により純粋な液体を取り出す錬金術師の技を、蒸留と呼ぶのです。

蒸留の仕組み

自然界で酵母に任せては実現できなかった「より純粋なお酒」は、錬金術師によって誕生したのです。

蒸留をして、エタノール(エチルアルコール)の気体だけを集めたとしても、100%純粋なエタノールになることはありません。


なぜなら、水は沸騰していなくても蒸発しているからです。

完全に純粋なエタノールを得ることは難しい

もっと純度を高めたい場合は、蒸留して得たエタノール濃度の高い液体を、さらに蒸留し、またそれを蒸留し……と繰り返すことが方法の一つです。

錬金術師が作る蒸留酒は『生命の水』

  • 🍻ビール
  • 🍷ワイン
  • 🍶日本酒

など、微生物が糖分を食べてアルコールを作る基本的なお酒は醸造酒(じょうぞうしゅ)です。


それに対して、蒸留により完成した、もっと純度の高いお酒を蒸留酒といいます。それぞれ、

  • ビールを蒸留したもの…ウイスキー
  • ワインを蒸留したもの…ブランデー
  • 日本酒を蒸留したもの…焼酎(泡盛)

と考えることができます。蒸留器が広まるのは9世紀以降なので、蒸留酒の出現は醸造酒よりもずっと遅いです。

醸造酒と蒸留酒
醸造酒を蒸留して純粋にしたものが蒸留酒

ウイスキーは市販ビールを蒸留して作っているわけではありませんし、「ビールを蒸留したものがウイスキー」と簡単に言えるわけではありません。


しかし原料と製造方法としては、「ウイスキーはビールを蒸留させて作る」と考えることができます。

参考: ビールを蒸留するとウイスキーになり、ワインを蒸留するとブランデーになると聞いたのですが本当ですか?

原料醸造酒蒸留酒(醸造酒を蒸留)
ビール(約5%)ウイスキー(約40%)
葡萄ワイン(約12%)ブランデー(約40%)
日本酒(約15%)焼酎(約25%)

※焼酎は、米よりも芋や麦で作る方が多い

蒸留酒は、人類滅亡を救う『生命の水』

14世紀、世界中でペスト(黒死病)が大流行し、ヨーロッパ人口の約3分の1が死亡するほどの人類滅亡の危機にありました。


ペストは一度かかれば助かる見込みが少なく、高確率で死んでしまう恐ろしい病気です。

ペストで死ぬ人々
ヨーロッパ中で死体があふれる

そんな死の恐怖に怯えた人々は藁にもすがる思いから、「純粋なお酒である蒸留酒は、”生命の水” である。これを飲めば、ペストにかからない!」という噂を信じ切るほどになり、盛んに求められました。

ウイスキー
ウイスキー。蒸留酒は生命の水

死から逃れ、神に近づくための薬として、蒸留酒は世界中に広まったのです。蒸留酒に様々な薬草を加え、さらなる不老不死の薬の開発も世界中で進むことになります。

  • 錬金術師の不老不死に対する熱意
  • イスラムの錬金術師が開発した蒸留器

が、今のお酒文化を生み出したというわけです。

アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバ。蒸留酒に薬草を加えることで、たくさんのお酒を作ったスペインの錬金術師
アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバ。蒸留酒に薬草を加えることで、たくさんのお酒を作ったスペインの錬金術師

20歳を超えて、なおかつお酒に弱くない体質であれば、

  • ウイスキー
  • ブランデー
  • 焼酎

などアルコールの強い蒸留酒を、不老不死をもたらす「生命の水」としてじっくり味わってみましょう。現代の錬金術師たちが、丹精を込めて作っているはずです。


もちろん、強いアルコールが苦手なら、ソーダや水などで薄めて飲めば十分に楽しめますよ。

ハイボール
ウイスキーに炭酸水を加えるウイスキー・ソーダを「ハイボール」という。
写真はサントリー

醸造酒であれ蒸留酒であれ、お酒は一気に飲んだり、絶対に他人に強要してはいけません。無理な飲酒で毎年何人も死んでおり、許されることではありません。


錬金術師が苦心した歴史を学び、敬意を払っているのならば「お酒は味わって楽しむもの」という大原則を絶対に忘れないでください。もちろん、20歳になってから。


未成年の飲酒は脳を壊し、発達を阻害します。

参考文献

知っておきたい「酒」の世界史

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