万有引力を操り『天地統一』を果たしたニュートン

ニュートンと万有引力 中1理科

話は1590年の日本に遡ります。このとき、天下統一目前にして本能寺の変で自殺した織田信長の跡を継いだ戦国武将、豊臣秀吉がついに日本で初めての天下統一を成し遂げました。

豊臣秀吉

そこから少し時が流れて1643年……、イギリスで一人の物理学者が生まれました。彼の名前はアイザック・ニュートン。江戸幕府にて、第3代将軍徳川家光が日本を統治していたころのことです。

ニュートンが生まれたのは江戸時代

日本では、豊臣秀吉は「日本で初めて天下統一を成し遂げた男」として誰もが知っているヒーローです。農民の身分から成り上がり、最後にはたくさんの兵隊を率いて、武力で日本全体を統一する権力者になったのです。


しかし……、ほぼ同じ時代にイギリスで生まれたニュートンは一味違います。彼は武力ではなく学問の世界で、なんと地球と宇宙を統一する、『天地統一』を成し遂げた男として、今も歴史上最大の天才物理学者として世界中で語り継がれるようになりました。

天下統一と天地統一

👽 アリストテレスの宇宙観

ガリレオはアリストテレス以来の常識をぶち壊したことを学びましたが、アリストテレスはあまりにも大きな存在であったため、その他にも大きな影響を与えていました。

アリストテレス

地上界と天上界

アリストテレスは、地上と宇宙を、「地上界」「天上界」と分けて考えていました。月より下にあるのが「地上界」、月よりも上が「天上界」です。


アリストテレスは、天上界は神の完全な世界であり、物体は完全な立体である球の形をしていて、基本的には全く変化しない不動の世界だと考えます。


そして地上界は、人間の住む不完全な世界であって、物体は常に変化するし、完全な球体もなく、どこか必ず歪んだ形になります。

点上記と地上界
天上界…完全な球体、円運動、その他は不動
地上界…不完全な形、直線運動、常に変化

【天動説】円運動と直線運動

アリストテレスは、地球は静止してドッシリ中心に構えており、その周りを太陽など他の星が周っているという天動説を主張していました。


太陽など天上界の星々は、地球の周りを完全な円運動をしていると考えていたのです。

アリストテレスの宇宙観
もちろん、今ではこの考えが間違っていることが判明している。本当は太陽が中心(地動説)であり、星は円ではなく楕円運動をしている

しかし人間が住む地上界を見ると、完全な円を描いて運動している物体などありません。例えば物体が高い場所から落ちるときも直線で落ちていくし、ボールを転がしても直線的に進んでいきます。


こういった違いから、「天上界と地上界は、全く別の物理法則が働く世界なのだ」と考えられていました。

天上界と地上界の物理法則

🌌 ニュートンの天地統一

ニュートンはある日、木からリンゴが落ちているのを目にしました。その時に彼が考えたことを友達に話した内容が、文献として残っています。

ニュートンとリンゴ
ニュートンのリンゴの話が本当である証拠
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8461591.stm

「私が深く考え込んでいた時、リンゴの落下を見て、重力の考えが思い浮かびました。なぜ、リンゴはいつも地球の中心に向かうように、垂直に地面に落ちるのか?と考えたのです。」

Newton’s apple: The real story

重力の存在はもともと知られていましたが、ニュートンはここからもっと先を考えます。

月はなぜ落ちてこないのか

リンゴは木から落ちてきますが、もっと高い場所にある月は、なぜ地球に落ちてこないのでしょうか?アリストテレスならきっと、「重力があったとしても、それは直線運動をする地上界だけのもの。天上界は、完全な円運動の世界だから重力は関係ない」と答えるはずです。


アリストテレスの考え方は自然な考えです。月にもリンゴと同じく地球からの重力が働いているのなら、月もリンゴのように落ちてくるはずです。しかし月は落ちてこないのだから、月には重力が働いていないと考えられます。


しかしニュートンは、「いや、重力は地上のリンゴだけじゃなく、月にも働いているはずだ!」と考えます。つまり重力は、地上界にも天上界にも働いていると考えました。

ニュートンの考え方

しかし、ニュートンのように「地上のリンゴと同じように、月にも重力が働いている」と考えるならば、「なぜ、月は重力によって地球に落ちてこないのか?」という問題をしっかり考える必要があります。

月もリンゴと同じように、地球に落ちている!

ニュートンは、「なぜ、月は重力によって地球に落ちてこないのか?」という問題に、は「リンゴと同じように、月も重力によって地球に落ちている!と答えます。


しかし、どう考えても月は地球に向かって落ちていませんし、ニュートンの言っていることは信じられません。

月が地球に落ちている

ニュートンはこう説明します。例えば、ビルの上からボールをまっすぐ遠くに投げるとします。すると、重力に従って、弧を描いて地面に落ちます。ボールを速く投げれば投げるほど、ボールは遠くで落ちます。

速いボールを投げるほど、遠くに落ちる
ニュートンは、ビルではなく山で説明している

さらに、どんどん速く投げたとすると……、最後には地球を一周してしまいます。ボールが落ちる時のカーブが、ちょうど地球の丸さと一致するからです。

ボールが地球を一周する
ニュートンの絵
ニュートンが本に掲載した絵。確認したところ、英語版しか売っていない
A Treatise of the System of the World (English Edition)

つまりこれは、

  • ボールがあまりに速いので、地球を周ってしまう
  • ボールは地球へ落ち続けているが、地球が丸いから1周してしまう

といった、とても面白い状況です。しかし、もしボールがそれ以上に速すぎたら、地球の重力を振り切って宇宙空間に飛び出してしまいます。

地球を一周するスピード

「ちょうどよい速さ」で投げれば、ボールは地面に落下せず、速さと地球の重力がうまくつり合って、地球を一周してくれます。


ニュートンは、「月が落ちてこないのも、全く同じ原理だ」と考えました。月は「ちょうどよい速さ」で動いており、速さと地球の重力がうまくつり合い、地球に落下し続けながら、ずっと地球を周り続けているのです。

地球からの重力と月の円運動

このニュートンの理論は、現代でいう人工衛星の理論と全く同じです。

国際宇宙ステーション

しかし、どうして月は永遠に動き続けているのでしょうか?


ガリレオの「物体は永遠に運動を続ける性質がある」という考えを思い出してください。

ガリレオの慣性の法則

実際には、摩擦力や空気抵抗が物体を止めようとするので、物体は止まります。


しかし、宇宙空間のように空気のない場所では、もはや月の勢いを止める力がありません。だから、隕石がぶつかったりしない限り、月は永遠に地球を周り続けます


これは、地球と太陽で考えても全く同じ理由です。地球は太陽からの引力に引っ張られながら、太陽の周りを周っています。

地球の公転

ニュートンの天地統一

これがニュートンの天地統一です。ニュートンが数学を使って証明したこの理論により、もう人類はアリストテレスのように、「天上界と地上界」などと世界を分ける必要はなくなりました。


地球でも宇宙でも、全ての物体は重力の影響を受けているのです。


重力とは、他の物体を引きつける力です。ニュートンはさらに、地球だけでなく、どんな物体もこの「引きつける力」を持っていることを証明しました。これを万有引力(ばんゆういんりょく)の法則といいます。重力とほぼ同じ意味です。

万有引力
本にも机にも、人間にも、全ての物体は重力(引力)を持っている。万有引力。
天上界地上界
アリストテレスの世界神の完全な世界人間の不完全な世界
ニュートンの発見地球も宇宙も、全く同じ法則で動いている

地球(地上)と宇宙(天上界)。全く違うように見えるこの2つの共通点を見つけ出し、「この2つの世界は、同じものなんだよ。分けて考えなくていいよ」と言ったところに、ニュートンの素晴らしさがあります。

💪 力の単位 N(ニュートン)

以上のような天地統一を、ニュートンは数式に表して表現しています。以下の式は、物体が持つ万有引力(重力)の強さを計算するため、ニュートンがまとめた数式です。

万有引力数式
様々な物体間の万有引力の強さが分かる式

こんな式で求められる万有引力の強さは、単位を N (ニュートン) で表すことになりました。もちろん、ニュートンの業績に敬意を示すためについた単位名です。


難しい式ですが、簡単に言えば、「地球上の100gの物質には、約1Nの地球からの重力がかかる」というものです。200gには2N, 300gの物体には3Nの重力がかかることになります。


これは、地球上の物体でない、星でも何ら変わりません。ニュートンの天地統一により、同じ式で表せるようになりました。

ニュートン

100gの物体は、1Nの力で地球に引きつけられています。あなたの体重が50kg ならば、500Nの力で地球に引きつけられています。


質量のある物質ほど、体重計で大きな数字が出るのもこのためです。体重計は、実はNの大きさを計測して体重を表示しています。


“万有”引力ですから、引っ張る力は地球からだけじゃなく、全ての物体から働いていることに注意。鳥もあなたを引っ張っているし、本もあなたを引っ張っています。

万有引力の法則
本や鳥は地球に比べてとても軽いので、これらから引っ張る力を感じることはありません。
万有引力数式

上のニュートンの式を使えば、

  • あなたが地球から受けている重力(引力)の大きさ
  • あながた持っているスマホから受けている引力の大きさ
  • 同じ部屋にいる友達から受けている引力の大きさ
  • あなたが月や太陽から受けている引力の大きさ

など、全宇宙の全ての引力を計算することができます。


これこそ、ニュートンの天地統一です。もはや、天上界と地上界の区別など不要です。たった一つの式で、宇宙全ての引力が分かるようになりました。


人間がロケット人工衛星など、宇宙(天上界)へ飛び立つ人工物を開発できるようになったのも、ニュートンの天地統一なしには不可能です。

重さとは、力である

地球からの重力を表すN(ニュートン)は、力を表します。例えば40kg (40,000g) の人にかかる重力は 約400N です。この場合、400Nの力で体重計を押し付けることになります。

体重計が検知する力

体重計は、この400Nを検知し、体重を40kgだと表示しています。


つまり、「重さ」とは、加わる「力」であると言えます。したがって物理学では、「重さ」と「力」は同じことを指します。どちらも単位は N(ニュートン)です。

重さと力は同じ

力の作図方法

物体を押したり引っ張ったりして加える力も、N(ニュートン) で表します。物理学では、以下の3つのルールをもとに力を作図できます。

  • 矢印で力の向きを表す
  • 矢印の長さは、力の強さを表す
  • ●は作用点(力の働く点)を表す
力の作図方法
重力の作用点は、物体の中心点(正確には重心)

垂直抗力摩擦力も、全て矢印で力を表現できます。「矢印で力を表現する」ことは、とても大切な物理学の基礎です。矢印をしっかり描けるようになるだけで、ガリレオやニュートンのような天才物理学者の考えを理解できます。

力の作図

「巨人の肩の上に立った」ニュートンと豊臣秀吉

ガリレオやニュートンが生まれる前までは、ヨーロッパ中の人々はアリストテレスの言うことを信じ切っていました。実際、アリストテレスは天才だし、しかもアリストテレスが言っていることは正しいようにしか思えないので、無理もありません。



実はニュートンが生まれたのは、「運動している物体は、それを妨げる力が働かない限り、永遠に動き続ける」ことを発見し、アリストテレスに反対したガリレオ・ガリレイが亡くなって1年後


豊臣秀吉が織田信長をすぐに引き継いで天下統一を成し遂げたように、ニュートンは近代的な科学を創り上げたガリレオの研究を引き継ぎ、地球と宇宙を統一する天地統一を成し遂げたわけです。

ガリレオとニュートン

ニュートンは、自分が素晴らしい成果を出せた理由を、「私が遠くまで見渡すことができたのは、巨人の肩の上に立っていたからです」と言っています。


信長が天下統一のために敷いた基盤を秀吉が受け継いだように、アリストテレスやガリレオなど、歴史上の巨人の肩の上に立ち、ニュートンはさらに物理学を磨き上げることに成功しました。

巨人の肩の上に立つニュートン
先人たちの研究基盤の上にニュートンがいる

偉大な先人たちの理論を勉強し、その上で新しい事実を発見する。そんな流れで今の科学技術の発展があります。

📚 おすすめ参考文献

📖 参考になった書籍

マンガ おはなし物理学史 物理学400年の流れを概観する (ブルーバックス)

今回学んだような、ガリレオやニュートンがいかにアリストテレスを乗り越え、物理学を確立させたか……といったストーリーが漫画で分かる貴重な本です。


登場人物の何気ないセリフもしっかり史実に基づいたものが多いので、正しい歴史を分かりやすく学べます。特に、教科書に載る物理学者が考える過程がちゃんと描かれている所がポイントです。

光と重力 ニュートンとアインシュタインが考えたこと 一般相対性理論とは何か (ブルーバックス)

中高生では少し難しく、物理学史としてもニュートン〜アインシュタインまでと、完全に理解するには基礎知識が求められます。


しかし、ニュートンが万有引力の法則を打ち立てた経緯、その先人のガリレオ、ケプラーの研究がいかに役立っていたか……などを知るには最適な本です。


文庫本としての分かりやすさはあるので、物理学が発展した流れを知りたい人はぜひ読んでみてください。

📱 参考になったページ

天体の運動は遠心運動ではない 引力、重力、遠心力について

サイエンスヒストリー  ~ニュートンの物語~ いつも分かりやすいNHK高校講座。テキストでも準備されてるのがいい。

Newton’s apple: The real story ニュートンのリンゴの逸話について。

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