混合物の沸点の違いを利用する “蒸留” は、不老不死の薬を作る錬金術のために活用された神の技術でしたよね。
しかし蒸留は、不老不死の薬を作るためだけのものではありません。
蒸留技術はもっともっと奥が深いものであり、何年研究しても足りるものではありません。今も日々、蒸留の性能を高めるために現代の錬金術師(化学者)により研究が進められています。
錬金術師が発展させた蒸留技術がなければ、今の便利な社会は絶対にありえないのです。

今回は、数千年に渡る錬金術師の知恵が詰まった『分留』を学ぶことで、「錬金術は現代でもいかに重要であるか」を学びましょう。
最後に、理解を試す問題集📝も用意しているのでチャレンジしてみること!
⚗️ 神の技術「蒸留」の応用『分留』
不老不死の薬を作るため、ビールやワイン(醸造酒)から蒸留酒を作ることは、非常にシンプルな蒸留で可能でした。
水とエチルアルコール(エタノール)の2種類の液体の沸点の違いを利用するだけで、純粋なエタノールを抽出できます。

しかし現代では、蒸留はスーパー錬金術『分留』にまで進化し、人類社会の発展に絶対に不可欠な技術になっているのです!
採掘される原油は、混合物
車のガソリン、飛行機の燃料はもちろん、ストーブの灯油やプラスチックの原料まで幅広く利用される石油製品。

これら石油製品は、大きな設備を使って採掘される原油から得ることができます。

原油は、動植物の死骸が膨大な時間をかけて変化したものなので、たくさんの化学物質からできた有機物です。
つまり、原油は混合物。
その原油をうまく分類することができれば、用途にあった石油製品がたくさん作ることができるのです。
- 石油(LP)ガス(料理やライター)
- ガソリン、ナフサ(車やプラスチック)
- 灯油(飛行機の燃料やストーブ)
- 軽油(トラックや機械燃料)
- 重油(工場や発電所、船の燃料)
など、原油から得られるものは全て石油製品と呼ばれます。大地から原油を採掘した後は、原油をこれら石油製品に分けていくことが大切なのです。
原油を石油製品に精製することこそ、産業にとって大切なこと。したがって例えば日本では、
- 海外で原油が採掘される
- 原油を石油タンカーで日本の製油所へ運ぶ
- 製油所で、原油をいろいろな石油製品に分けて集める
というプロセスを経ています。この流れこそ、現代社会のエネルギーを支えているのです。

日本の場合、原油はほとんどサウジアラビアなど中東からの輸入に依存しています。

日本で利用する原油の約87%を、サウジアラビア近くの中東から輸入している状況です。残りはロシアなど。
⛽️ 原油を石油製品に分ける方法
しかし、様々な成分が混ざりあった原油を、どうやってナフサや灯油、軽油などの石油製品に分けていけばよいのでしょうか?

原油も液体ですし、ナフサや石油、軽油も液体です。液体から純粋な液体を取り出す技術といえば….、ヒントになるのは神の技術、蒸留ですね。
例えば水とエタノールの混合物があったとき、双方の沸点の違いを利用して純粋なエタノールを取り出す技術が蒸留でした。原油からいくつもの石油製品を取り出すのも、各製品の沸点の違いを利用すればいいのです。

つまり、原油を細かく蒸留させることができれば、様々な石油製品を取り出すことができます。この「細かく蒸留させること」を分留(ぶんりゅう)と呼んでいます。
石油精製を行う蒸留塔
原油を様々な石油製品にするための石油精製は、製油所と呼ばれる大きな工場で行います。
製油所にはたくさんの設備がありますが、なんと言ってもスーパー錬金術である分留(ぶんりゅう)という技術を使う蒸留塔がメインです。
蒸留塔はまさに、錬金術師の知恵を集約した素晴らしい設備なのです!

スーパー錬金術『分留』の仕組み
蒸留塔の内部は以下の図のようになっています。上の階層へ行くほど温度が低くなっていく作りです。
低層部は超高温ですが、最も温度が低い部分では約35℃で、夏場の気温と同じくらい。

原油は混合物です。これから取り出したい様々な物質が混ざりあっています。
重油だけを抽出する
その混合物の原油をまず、加熱炉で原油を350℃以上で熱します。そして、これらを蒸留塔の下部に吹き込みます。

かなりの高温であるため、原油成分のほとんどは沸騰して気体(石油蒸気)となります。しかし、気体は蒸留塔を上昇していきますが、一部沸点が高い重油だけは気体にならず、下に液体として貯まります。

この時点で、混合物の原油を、
- 重油 (液体)
- それ以外の混合物 (気体)
に分離することができました!蒸留の一部が成功したことになります。こうやって抽出した重油は、船や工場の燃料に使われます。

この時点での石油蒸気は、
- 🚚 軽油
- 🛩 灯油
- 🚗 ナフサ
- 🔥 LPガス
の混合物であることになります。原油はもう抽出されています。

軽油だけを抽出する
この石油蒸気は、蒸留塔の内部を上昇していきます。
次の階層では、温度を350℃から最大240℃くらいまで冷やします。すると、石油蒸気の中でも軽油部分だけが凝縮し、液体になります。

一度沸騰させてから、欲しい物質だけを凝縮して取り出す。まさに蒸留により、軽油を抽出したことになります。ここで採取された軽油は、主にトラックや機械の燃料に利用されます。


この時点での石油蒸気は、
- 🛩 灯油
- 🚗 ナフサ
- 🔥 LPガス
の混合物であることになります。原油と軽油はもう抽出されています。

灯油だけを抽出する
この石油蒸気は、蒸留塔の内部を上昇していきます。
次の階層では、温度を250℃から最大170℃くらいまで冷やします。すると、石油蒸気の中でも灯油部分だけが凝縮し、液体になります。

一度沸騰させてから、欲しい物質だけを凝縮して取り出す。まさに蒸留により、灯油を抽出したことになります。ここで採取された灯油は、主にストーブや飛行機の燃料に利用されます。


この時点での石油蒸気は、
- 🚗 ナフサ
- 🔥 LPガス
の混合物であることになります。原油と軽油、灯油はもう抽出されています。

ナフサだけを抽出し、残りはLPガスに
また石油蒸気は、蒸留塔の内部を上昇していきます。
次の階層では、温度を170℃から最大30℃くらいまで冷やします。すると、石油蒸気の中でもナフサ部分だけが凝縮し、液体になります。

一度沸騰させてから、欲しい物質だけを凝縮して取り出す。まさに蒸留により、ナフサを抽出したことになります。ここで採取された灯油は、主にガソリンやプラスチックの原料に利用されます。

沸点がとても低く、最後まで気体であったLPガス(石油ガス)は一番上で集められ、料理のためのガスやライターに使われます。


- 沸騰させる
- 気体を冷やし、液体にして取り出す
という蒸留を繰り返し行い、原油という混合物から、様々な物質を取り出すことができました。これこそ、現代産業を支えるスーパー錬金術『分留』の技術です。
紀元前から中世頃まで大活躍した錬金術師たちの知恵と技術は、現代では化学者へ受け継がれ、現代の大きな産業を支えているのです。

📝 蒸留に関する問題集
最後に、錬金術の花形技術である蒸留についての理解を深める問題集を解いておきましょう。
前回の回を、完全に学んでおくことは必須です。
問題1.
水とエタノールが1:1の割合で作られた混合物がある。蒸留のための器具を使い、混合物を熱して温度変化を記録してグラフを作った。

ア〜エそれぞれの期間に出てくる気体を冷却し、それぞれを試験管に液体として集めた。

①この中で、最もエタノールが多い割合で含まれている試験管はア〜エのうち、どれであると考えられますか?
②また、なぜその試験管に最もエタノールが多く含まれているのでしょうか?
💮解答&解説はここをタップ
答え: ①イ ②エタノールの方が水よりも沸点が低いから
アは、水もエタノールもどちらも沸騰していませんし、気体になるのは自然に蒸発する分だけ。ほとんど気体はできていません。
エは、既に水の沸点まで到達しているので、水もたくさん含まれているはずです。

「エタノールは沸騰しているが水は沸騰していない」期間である、イとウで迷うはず。
イの期間では、エタノールが沸騰を始め、沸騰に熱を使うので温度上昇がかなり少なくなっています。
しかし、ウの期間では温度上昇が少しずつ見られてきました。

これは、
- イの期間…たくさんエタノールが沸騰したので温度上昇が小さい
- ウの期間…エタノールの沸騰が落ち着き、温度上昇が再開
以上の状況を意味します。
したがって、最もエタノールが含まれているのは、イの期間で採取できた液体であると考えられます。
理由は、エタノールの方が沸点が低くて先に沸騰するからですね。
問題2.
水とエタノールを1:1の割合で混ぜた混合物 10cm³ を蒸留しました。冷水に入れた試験管に集まった液体を、A, B, C の試験管に順番に 3cm³ ずつ入れました。

A, B, Cそれぞれの液体を脱脂綿に濡らし、火を近づけてみました。
①最もよく燃えるのはA, B, C のどれでしょう?
②また、Cに多く含まれる物質は何ですか?
💮解答&解説はここをタップ
答え: ①A ②水
脱脂綿に含ませて、よく燃えるのはエタノールです。
エタノールは正式名エチルアルコールであり、アルコールの一種。アルコールはよく燃えて危険なので、純粋なアルコールを直接熱することは危険でしたよね?
エタノールの濃度が高い蒸留酒は、不老不死の薬であったことは学びましたよね。
蒸留酒はエタノール濃度が高いので、火を付けるとよく燃えます。

この性質もあり、「蒸留酒には火の精霊が住んでいる」と考えられていました。これを飲めば、体に火の精の活力がみなぎるということです。
したがって、今も蒸留酒はスピリッツ(魂)と呼ばれます。
水よりエタノールの方が沸点が低いので(100℃と78℃)、最初に沸騰するのはエタノールだけ。
当然、最初に採取できたAの液体には一番エタノールが含まれています。脱脂綿に含ませると、一番よく燃えます。
Cの液体は、混合物を蒸留するとき、最後に集まった液体です。後に沸騰するのは水ですし、最後の方がすでにエタノールはほとんど沸騰しています。
したがって、Cには水が一番多く含まれていると考えられます。
問題3.
赤ワインを蒸留しました。

①蒸留の結果、採取できる液体の色は、以下のうちどれでしょう?
- 無色透明
- うすい赤色
- 赤ワインと全く同じ色
②蒸留が終わって、ガスバーナーを消す前には必ずガラス管を抜いておかなければなりません。それはなぜでしょうか?

💮解答&解説はここをタップ
答え: ①無色透明 ②液体が逆流し、試験管が割れる恐れがあるから
ワインも水とエタノールの混合物の一種であるため、蒸留して出てくるのはエタノールや水です。
消毒液を見れば分かるように、エタノールは無色透明です。

したがって、赤ワインを蒸留してエタノールが出てきた場合も、無色透明です。
赤ワインの赤い色素は、ブドウに含まれる成分であり、一緒に蒸発(沸騰)するわけではありません。
醸造酒であるワインを蒸留したら、ブランデーという蒸留酒になりましたよね。

ブランデーもウイスキーも、蒸留したての液体は無色透明です。
それを樽で長期間熟成させてから完成するので、最終的には樽の色などが移り、キレイなオレンジっぽい琥珀色になるのです。

また、実験が終わるときは、必ず火を止める前にガラス管を抜かなければなりません。
混合物の入った試験管を熱しているとき、沸騰による気体が増えており空気も膨張し、試験管内の気圧は高くなっています。その圧力は、採取した液体を下に押し付けています。

このときに火を消すと、試験管内が冷え、気体が凝結したり収縮して、急に気圧が低くなります。
その結果、液体を押さえつける力が弱まり、冷たい液体が試験管へ逆流します。

液体が、気圧の小さい場所へ逆流する現象は、アンモニアの噴水実験で少し学びましたよね。覚えていますか?
液体が逆流してしまうと、試験管は急激な温度差に耐えきれなくなり、パリンと割れてしまう危険があります。

📚 おすすめ参考文献
📖 参考になった書籍
・発展コラム式 中学理科の教科書 改訂版 物理・化学編 (ブルーバックス)
蒸留、分留、タイタンの環境についてまで、中学理科の内容から詳細にまで発展させる素晴らしい書籍です。やはり、ぜひとも覚えたい知識は、好奇心と共に取り入れる必要がありますね。
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