- 🌏 重力
- 🚖 摩擦力
- ⬆️ 垂直抗力
- 🏀 弾性力
など、物体にかかる力は矢印で表現することができます。

今回は、その中でも、主に建築や機械の設計に深い関係のある弾性力について深く学びましょう。
ロバート・フック
ニュートンは、ガリレオなど多くの科学者の後を継ぎ、アリストテレスが2000年も支配していた常識をぶち破った歴史に残る天才科学者です。

そのニュートンと同じイギリス、同じ時代に生き、ニュートンに近い立派な業績を残した科学者がいます。その名もロバート・フック。

彼は科学者として類まれなる多才さを持っており、
- 化学
- 生物学
- 天文学
- 物理学
など、様々な分野で重要な成果を出している、イギリスでも超有名な科学者です。
ニュートンと同時代に生きた彼はニュートンと多くの学問的意見交換をすることも多く、ニュートンの万有引力の発見につながるキッカケも与えた学者でもあります。
(実は、2人はめっちゃくちゃ仲が悪く、憎しみ合っていた)

「巨人の肩の上に立つ」の言葉も、この手紙で使った
💪 フックが着目した「弾性力」
「力」を研究する分野では、特にフックは弾性力に関する重要な発見を残しています。弾性力とは、「物体が変形したとき、元に戻ろうとする力」のことです。
例えばボールを押さえて変形させます。すると、「元の形に戻ろうとする力」、つまり弾性力が働きます。

この力の存在が、ボールが地面から跳ね返る理由です。地面にぶつかりグニャリと変形したボールが、元の形に戻ろうとするからこそ、上方向に反発してくれます。
バネに着目したフック
フックは、この弾性力を持つ代表的な物体として、「バネ」に着目します。
フックが着目した「バネ」は、細い金属を巻いてできた伸び縮みする物体です。

バネは押したり引っ張ったりすると変形しますが、弾性力を持っているので、元の形に戻ろうとする力が働きます。

このバネを対象に弾性力の研究をすると、大変研究がしやすくなります。
⚓️ フックの実験
新しい画期的な発見をするためには、実験することが欠かせません。フックも当然、実験をして記録するところから始めたはず。
例えば天井に固定したバネに、100g のおもりを引っ掛けたとします。100gの物体にかかる重力は1Nであると考えれば、1Nの力でバネを引っ張っていることになります。
このときのフックの実験で、バネが2cm伸びたとします。
(バネに弾性力があるからこそ、伸びが一定の長さで止まります。もし弾性力がなければ、バネの伸びが止まらず、すぐに壊れてしまいます。)

そこから、おもりをもう一つ追加して200gにすると、2Nの力がかかります。このときのバネの伸びは、何cmになっているのでしょうか?

重さとバネの伸びの関係性
正解は、4cmです。1Nで2cm 伸びるバネならば、2Nの力を加えると4cm伸びます。

フックは弾性力について考える際、おそらく、
- おもりの重さ
- バネの伸び
を丁寧に記録してみたはずです。
例えば、1Nの力で0.1cm, 2Nで0.2cm 伸びるバネAがあったとします。5Nまで計測して表にまとめます。

バネA | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 0.1cm | 0.2cm | 0.3cm | 0.4cm | 0.5cm |
同じ長さの違うバネ (バネB) は、1Nで0.3cm, 2Nで0.6cm伸びたとします。5Nまで計測して、以下で表にします。

バネB | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 0.3cm | 0.6cm | 0.9cm | 1.2cm | 1.5cm |
※実際の実験データは、正確に 0.3cm, 0.6cm….となるのではなく、多少の誤差が生じます。
天井に吊るしたバネおもりを吊るすのでなく、壁に固定したバネを引っ張っても同じです(今はシンプルに考えるため、バネ自身の重さは考慮しない)。

「力」と「重さ」は、全く同じ概念であることを忘れずに。
🧪 実験データをグラフ化してみる
実験データを取った後は、それをグラフにしてみることが大切です。座標に数値を落としていくことで、今まで気づかなかった法則が見つかる可能性があるからです。
バネAのグラフ
試しに、バネA の記録を座標に描き入れてグラフにしてみましょう。
バネA | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 0.1cm | 0.2cm | 0.3cm | 0.4cm | 0.5cm |

綺麗な直線のグラフになることが分かります。
バネBのグラフ
バネBの記録もグラフに描き入れてみましょう。
バネB | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 0.3cm | 0.6cm | 0.9cm | 1.2cm | 1.5cm |

バネBも、直線のグラフになりました。
フックの法則の発見
ロバート・フックはこの「重さ」と「バネの伸び」の関係の法則を発見しました。
「バネの伸びは、力の大きさに比例する!」
比例とは、「一方の数字が2倍、3倍になると、もう一方の数字も2倍、3倍になる」ような関係です。数学で学んだ比例を思い出してください。グラフにすると、直線の式になったはず。

「バネの伸びは、力の大きさに比例する!」
ロバート・フックがこの関係を発見したので、これを、
- フックの法則
もしくは、
- 弾性の法則
といいます。

実際の実験結果は、完全な比例ではなく多少の誤差が生まれます。
例えばバネBの実験結果は、以下のようになるはず。
バネB | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 0.32cm | 0.58cm | 0.95cm | 1.23cm | 1.45cm |

この後に線をつなげてグラフにするとき、マジメに折れ線を描く方法もあります。

しかし……、実際に計測した実験の結果は、あくまでも誤差がある数値です。
科学者は、普遍的な法則を見つけ出す必要があります。この場合は、描き入れた点の位置関係を見て、「傾向として、直線を描く比例関係があるのではないか?」と考え、直線を描けるようになりましょう。

🏢 建築や機械工学に欠かせないフックの法則
「バネの伸びは、加えた力に比例する」というフックの法則。一体何が凄いのか分かりにくいものですが、実は建築物や機械の材料を考えるときに大活躍します。

Chris Nyborg / CC BY-SA
フック自身、この法則は金属のバネだけでなく、気体も含めたあらゆる物体で成立すると考えていました。
ほとんど全ての物体はバネである
フックは金属でできたバネを使ってフックの法則を発見しましたが、この法則は、他の様々な物体でも応用ができます。
バネとはそもそも、「変形すると、元に戻ろうとする力(弾性力)を持つ物体」のことを言います。そう考えると、
- 金属
- 木材
- 果物
などなど、ほとんどの物体はバネとして考えることができます。
例えば木材の上にリンゴを置いただけで、目には見えないものの、木材もリンゴも、実は小さくへこんでいます。

リンゴも木材もどちらも変形しており、同時に「元に戻ろうとする力」が働いています。したがって、リンゴも木材もバネだということもできます。
様々な用途で利用されるフックの法則
バネの「変形したら、元の形に戻ろうとする力が働く」という性質はとても便利であり、様々な用途で機械設計や建築に活用されています。
- 地震の衝撃を和らげる (建築物など)
- 弾性力の放出 (武器など)
- 重さの測定
などが、代表的なバネの利用方法です。

Hooke’s law applications
フックの法則を知っていることで、
- 地震のショックを和らげるには、どんなバネが必要か
- この機械のためのバネは、何Nの力で何cm伸びるものがよいか
- この材料に1000Nの力が加わると、どれくらい変形するだろうか
など、細かく材料の性質や使い方を考えることができます。
材料の強さ比較
フックの法則による直線グラフを見ると、材料の強さを比較することができます。
ここで、バネAとバネBのグラフを同時に描いてみましょう。このとき、バネAとバネB、どちらが強い(変形しにくい)素材であるといえるでしょうか?バネAもバネBも、全く同じ長さであるとします。

グラフを見ると、バネAは、0.4cm伸ばすのに4Nが必要です。しかしバネBは、0.4cm伸ばすのに約1.5Nで十分です。
つまりこの場合は、バネAの方が変形しにくい、つまり強い素材のバネであると言えます。

🧮 比例の式を活用し、フックの法則をマスター
フックの法則は「力の大きさとバネの伸びは比例関係にある」という法則なので、比例の式を求めることができます。
物理学は、数学が基礎となる学問です。数学を使ってフックの法則を理解してみましょう。
比例式を作る方法
フックの法則をマスターするには、数学で学んだ比例の式をフル活用することが重要です。
例えば以下のようなバネXがあったとします。
バネX | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 8cm | 16cm | 24cm | 32cm | 40cm |

このとき例えば、「バネを3.2cm 伸ばすには、何Nの力が必要だろうか?」と調べたいとします。
フックの法則は「比例する」という法則なので、数学で学んだように、比例式を立てるのが一番速いです。
1N で 8cm 伸びるバネが、何N で3.2cm 伸びるのか求めたいときは、
1N : 8cm = x N : 3.2
という比例式を立てましょう。

比例式により、このバネを3.2cm伸ばすためには0.4Nの力が必要であることが分かりました。
もう1問。例えば、以下のようなバネCがあったとします。
バネC | |||||
力の大きさ | 0.1N | 0.2N | 0.3N | 0.4N | 0.5N |
バネの伸び | 0.7cm | 1.4cm | 2.1cm | 2.8cm | 3.5cm |

このとき、「バネの伸びが12cmになるのは、何Nの力を加えた時だろうか?」と考える場合は、グラフの式から考えることができます。
フックの法則は「比例する」という法則なので、数学で学んだように、比例式を立てるのが一番速いです。
0.1N で 0.7cm 伸びる場合、 何N で 12cm 伸びるのか知りたいのなら、
0.1N : 0.7cm = x N : 12cm
という比例式を立てましょう。

これで、バネを12cm伸ばすには約1.714Nの力が必要であることが分かりました。
グラフの式を求める方法
もしくは、グラフの式を求める方法もあります。数学が好きな人は、式一つでどんな問題でもズバリ答えが出る、こちらの解き方の方が気持ちいいかもしれません。
フックの法則は、グラフは必ず比例の式になります。比例とは、 y=ax で表せる式のことでした。以下のように計算し、式を作り出すことができます。

上記の計算から、バネCのグラフの式は、 y=7x であることが分かりました。
バネの伸び(y)が12cm のときの 力の大きさ(x) が知りたいのなら、この式に y=12 を代入すれば分かります。

もちろん、バネはどこまでもフックの法則が通じるわけではありません。
引っ張りすぎてバネが壊れたりすると、フックの法則はもはや成立しないので注意。
📚 おすすめ参考文献
📖 参考になった書籍
・ニュートンに消された男 ロバート・フック (角川ソフィア文庫)
同じ時代のイギリスに生きたフックとニュートンのお互いの業績とともに、激しくやりあった論争についても詳しく記述されています。
ニュートンとはいかないまでも、フックも歴史に残る大科学者ですが、彼の幅広く深い業績はあまり知られていません。その理由の一つは、ニュートンと彼が不仲であったことです。
そのせいか(?)、フックの法則について書かれた本や文献も少ないので苦労しました。この本は「フックの法則」という章があったので読んでみました。ただ、メインはニュートンとフックの関係性を描いています。
📱 参考になったページ
・Hooke’s Law applications フックの法則の何が凄いのか、応用例を知りたくて見つけたスライド。
・物理チャレンジ2018 実験レポート フックの法則は、基本的には金属でできたバネで試しますが、「ゴムでもフックの法則が成り立つのか?」を研究した高校生のレポート。
・構造設計を支える力学理論 短いがフックの法則が成立する範囲について参考
・ゴムの物理入門 対話形式で面白く、分かりやすかった!応力とひずみを理解刷る必要はないものの、中学生レベルでのこの範囲指導には「バネの長さや太さが同じであること」前提としてフックの法則を学ばせたほうがよさそうです。
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