
この世で一番速いものは何でしょう?
新幹線でも飛行機でも、ロケットでもありません。そんな人工物ではなく、この世で一番速いものは光です。
光の速さは、秒速30万km (30万km/秒)。つまり、たった1秒の間に30万kmも進む速さです。
地球をぐるっと1周すると、その距離は4万km。つまり光は、1秒で地球を7周半するくらいのスピードなのです!(300,000km÷ 40,000km = 7.5)

以下の再生ボタンを押して見てみてください。1秒で地球を7周半、ありえないくらい速いですね。
光がなければ何も見えない、真っ暗闇の世界です。キリスト教では、光は神が創ったとされています。
👇の絵は、バチカン市国のシスティーナ礼拝堂の天井に描かれた絵です。作者はイタリアの芸術家、ミケランジェロ。

これは、ユダヤ教とキリスト教の聖典『旧約聖書』にある、神が世界を創り出した日をイメージして描かれています。
旧約聖書には、
神は「光あれ」と言われた。すると光があった。
神はその光を見て、良しとされた。神はその光と闇とを分けられた。
と記載があります。神はまず天と地を創った後、光を創り出したのです。
光があるおかげで、人間は全ての物体を目で見ることができます。光がなければ、真っ暗闇で何もできない世界です。
なぜ物体が見えるのか?
宇宙は暗闇です。しかし、太陽など燃えている星が光を放っています。これら、自分で光っている星を恒星といいます。

恒星が無ければ、この宇宙は光のない闇の世界です。地球も、太陽という恒星があるからこそ、明るい昼があります。
太陽のように、自分から光を出してくれる物体を光源(こうげん)といいます。光源は他にも、
- 🔥火
- 💡電球
- 💻 パソコンやスマホの画面
などがあります。光源がなければ、何も見えない闇の世界です。

光を研究したユークリッド
光は、太陽などの光源から出てくることは何千年も前からの常識であり、誰もがなんとなく分かっていたことです。
しかし、実際に「光はどんなもので、どんな性質があるのか?」という疑問には、人類はなかなか答えられませんでした。「光それ自体」を見ることはとても難しいからです。
そんな中、約2300年前の紀元前200~300年に生きたギリシャの数学者ユークリッド(エウクレイデス)が本格的に光の謎を解き始めます。

約2300年も前に生きたユークリッドは、
- 光は直進する
- 光は反射する
この2つの光の性質を、自分の本に書き残しました。
光の直進
太陽や電球を見ることはできますが、ふだんは、
- 太陽からの「光の道すじ」
- レーザーポインタからの「光の道すじ」
などは目に見えません。
これが、光を研究することが難しかった理由です。

しかし太陽光の道すじは、チリや煙が舞った場所で見えることがあります。その光は直進していることに気づきます。

レーザーポインタでも、濁った石鹸水を通せば、光の道筋がとても良く見えます。線香のけむりを使ってもOK。

これらを見ての通り、光は決して曲がらず、まっすぐ進むことで知られています。
これを光の直進といいます。
くっきりとした影ができることも、光が直進していることを納得させてくれます。

上の写真の通り、太陽からの光はバラバラな方向ではなく、常にまっすぐ平行に地球に降り注いでいるからこそ、くっきりとした影ができるわけです。
光の反射
ユークリッドは、「光源から出た光は、物体にあたって反射する」ことも発見し、本に書き残しています。
ユークリッドの言う通り、光は物体にぶつかると、跳ね返ります。これを光の反射と呼びます。

当然、反射した光もまっすぐ進みます。光の直進。
物体が見えるのは、光が目に入るから
ユークリッドは、
- 光の直進
- 光の反射
の2つを発見して本に残しましたが、それだけではありません。「なぜ、明るい場所では物体が見えるのだろうか?」という謎についても考えます。
「なぜ物体が見える?」ユークリッドの考え
「物体が目に見えること」のような、一見当たり前であることに疑問を持つことは、優れた科学者になるための条件の一つです。
2300年ほど前に生きていたユークリッドも、「明るい場所では、どうして物体が目に見えるのだろう?」と疑問に思っていました。考えた結果ユークリッドが仮定した答えは、
「昼間は、目から光線のようなものが出ていて、それが物体にぶつかると、その物体が目に見えるのだろう」
というもの。

・目から視線が直線的に出ていく
・視線が当たる物体は見えて、当たらない物体は見えない
ユークリッド『視覚論,Optica.』(c.300 B.C.) 参考: 田山令史『視覚論と脳』
しかし、これはユークリッドの間違いでした。昼間であれ人間の目からは、ユークリッドが言うような光線っぽいものは出ていません。
物体からの光が目に入ると、見える
真実は、ユークリッドが仮定したものとは正反対のものでした。
現代の科学では、「物体から出る光線が目に入ると、物体が見える」ことが分かっています。

太陽などの光源は、物体からの光が直接見えます。しかし光源ではない物体は、光源からの光を反射することで、私たちの目に映ります。

太陽など、とても強い光源を直接に目で見ることは絶対にやめましょう。わずかでも直視すると目の組織が破壊され、視力が低下、失明します。
つまり、
- 光源(太陽やスマホなど)……直接光が目に入って、見える
- 光源ではないもの(月や猫など)……光源からの光を反射して目に入るから、見える
ということです。

本など「光源ではないもの」は、光源がなければ見えません。
石鹸水を通すと「光の道すじ」が見えたのも、石鹸水のにごり成分が光にぶつかって方向を変え、目に入ったからなのです。

何かにぶつからない限り、光が見えることはありません。
光より速いものは、この宇宙には存在しない
冒頭で話したように、光は秒速30万km (30万km/秒)。1秒に30万km進んでしまうほどのスピードです。
ドイツの天才物理学者アインシュタインは、「光こそがこの世に存在する最も速いものであり、これより速いものは存在し得ない」ことを証明しています。

光は直進する
そんな光は、「地球を7週半するくらいの速さである」とよく言われます。とてつもないスピードですが、本当に光は1秒に地球を7周半するのでしょうか?
ユークリッドの言葉を思い出しましょう。彼は、「光は直進する」と言いました。
なので実際は、光は丸い地球を周ることはありません。地球から強い光を発したら、秒速30万kmの猛スピードで、直線的に宇宙に出ていくことでしょう。

光は過去を伝えるタイムマシン
地球と太陽はとても遠いので、太陽(光源)から出た光は地球に到達するまで約8分19秒かかります。ということは、地球から見える太陽は、8分19秒前の太陽だということになります。

つまり、私たちが見る太陽は、あくまでも8分19秒前の太陽です。光が目に入るまで時間がかかるので、「まさに今の太陽」を見ることはできません。
光を通して、過去の世界を見る
未来に行くことは難しいのですが、実は「過去の世界を見ること」はとても簡単です。
例えば、夏の夜空を見上げれば、はくちょう座のデネブが見えます。デネブは、ベガとアルタイルとともに、夏の大三角を作る超有名な星です。

このデネブ、地球からの距離は約1500光年だと言われています。つまり、光がデネブから地球まで到達するのに、1500年かかるほどの距離があるわけです。

物体が見えるのは、その光が目に入るからですよね?
当然、地球でデネブを見るためには、デネブの光が目に届くのを待たなくてはいけません。したがって、私たちが今見ているデネブは1500年前、つまり古墳時代、聖徳太子が生まれる前のデネブです!
逆に言えば、もし高性能の望遠鏡を持って、瞬間移動で1500光年離れたデネブに行ったとします(注: デネブは恒星なので、人間は着陸できない)。
そこから地球を高性能望遠鏡で見られたら、そこには古墳時代の日本が見えるはず!

夜空の星を眺めてみてください。そのとき見える星は、数千年や数万年、もしかしたら数億年前の姿かもしれません。光は過去を伝えるタイムマシンです。
人類が本当のタイムマシンを発明するとすれば、きっとこの「過去を伝える」光の性質を利用したものになるでしょう。
📚 おすすめ参考文献
📖 参考になった書籍
・いやでも物理が面白くなる〈新版〉 「止まれ」の信号はなぜ世界共通で赤なのか? (ブルーバックス)
「学校で教える物理」は正直、あまり人気がありません。しかし、物理を学ぶにあたり本当に大事なことは、「理屈抜きに感動すること、不思議に思うこと」だということに気づかせてくれます。
今回の「光の速さ」「タイムマシン」などの話が好きな人には特にオススメできます。
身近な事例を物理的に学び感動しつつ、豊かな思考力を与えてくれる本です。
(※2020年現在、Kindle版を購入すると、特典として第6章が読めます。)
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