1970年代、イギリスにピンク・フロイドという大人気のロックバンドがありました。その当時の音楽ファン、特にロックが好きな人の中に、ピンク・フロイドを知らない人はいませんでした。
結成から50年以上経った今でも、ピンク・フロイドは世界的に有名なロックバンドです。40~50年前、日本の洋楽ファンもピンク・フロイドの芸術的な音楽に魅了され、夢中になっていました。

彼らはたくさんの楽曲やアルバムを創作しましたが、その中でも1973年に発表したアルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』は、世界中でギネス記録に残るほどの大ヒット。今も伝説のアルバムとして語り継がれています。
👇の写真は、その『狂気』のアルバム・ジャケットです。洋楽ファンなら、絶対に一度は見たことがあるジャケット。

『狂気』は今も不朽の名作として語り継がれるアルバムですが、この芸術的で不思議なアルバム・ジャケットも人気の理由です。
三角形の不思議な物質と、そこから出る謎の虹。当時のファンは、「この不思議で綺麗なジャケットは何だろう?」と疑問に思ったものです。
実はこのジャケットが表す図には….、光の反射や光の屈折など、物理学と深い関係があったのです。
🔺 『狂気』の三角形の正体、プリズム
『狂気』のジャケットに描かれる三角形、これはプリズムと呼ばれる三角柱ガラスです。要するに、凸レンズの三角柱バージョン。
Amazonで1,000円くらいで買えます。

ニュートンが楽しんだプリズム遊び
イギリス人のアイザック・ニュートンは、物理学の歴史に残る天才として知られています。彼は万有引力を発見したことで有名ですが、実は光の研究にもすごい成果を上げています。

ニュートンが23歳のとき、プリズムを使って光の実験をしていました。
プリズムに光を入射すると、なぜか光が鮮やかな虹色となって出ていきます。この現象に感動したニュートンは、プリズムで虹を創り出す遊びを楽しんでいました。

D-Kuru / CC BY-SA 3.0 AT
プリズムが虹色を出す理由
「なぜプリズムが虹色を出すのか」。その理由を発見したのがニュートンです。
光源である太陽光や蛍光灯などを見てみましょう。普通、光の色は白いことが分かります。

しかし実は…、白い光には様々な色の光が含まれています。それらの色が全て混ざっているからこそ、光は白色に見えているのです。

プリズムに入射する白色光は、三角形で2回屈折することになります。そして、白色光に含まれるそれぞれの色は、屈折率が異なっています。
白色光に含まれる無数の色の光線には、屈折しにくい色と、屈折しやすい色があります。
- 赤や黄色系の光線…屈折しにくい
- 紫や青色系の光線…屈折しやすい
その2回の屈折の結果、それぞれの光がバラバラに屈折します。それが鮮やかな虹色となって、プリズムから出てきます。

ニュートンはプリズムを使って、光を分けて虹色を作っていたのです。

プリズムに限らず、ガラスなどに太陽光が入ると虹色が現れることがあります。これらも全て、光がガラスの中で屈折し、白い太陽光が様々な色に分かれているからです。

ニュートンの功績
「白い光は、様々な色の光が混じり合ったものである」
という事実を発見した物理学者こそ、アイザック・ニュートンです。
それまでの常識では、「白い光は何も混ざっていない、純粋な光である」と信じられていましたが、彼はプリズムで虹を作って遊ぶうちに、それが全く逆であり、むしろ「白い光は、たくさんの色がごちゃごちゃに混ざったものである」ことを突き止めたのです。

StatueOfIsaacNewton
プリズムなどを使えば、白い太陽光も様々な色に分けることができます。以下の棒のように、様々な色の光を順番に並べたものを、スペクトルといいます。

Why Is the Sky Blue?

光のスペクトルを見ると、光は大きく分けて、
- 青
- 緑
- 赤
の3種類が混じり合ってできていることが分かります。この3つの色を、光の三原色といいます。
光の三原色は、
- 青
- 緑
- 赤
であり、全てがまざると白い光になります。
絵の具などで使う色の三原色は、
- 黄色
- マゼンダ (赤紫)
- シアン (水色)
であり、全てを混ぜると黒くなるので注意。
🏅 ノーベル賞を受賞した「青色発光ダイオード」
LEDって聞いたことがありますか。発光ダイオードという、電圧を加えると光る物質のことです。電球やスマホのライトに広く利用されています。
白熱灯や蛍光灯など従来のライトに比べ、寿命や消費電力が圧倒的に優れている、新世代の素晴らしい光源です。

LEDは、今までの常識を破るほどに効率的な光源であったため、実際に家や電子機器のライトとして利用されることが期待されていました。
しかし、家や電子機器のライトとして利用するためには、白色のLEDが必要です。赤かったり、チカチカする色では日常では使えません。

LED(発光ダイオード)は以前から発明されており、実際に赤色と緑色の発光ダイオードは既に開発が進められていました。
これに加え、あと青色発光ダイオードさえ発明されれば、白色のLEDを実現できます。赤緑青、光の三原色を混ぜ合わせることで、白色の光を作ることができるからです。
そして2014年、日本人科学者3名がノーベル物理学賞を受賞しました。その受賞理由はもちろん「青色発光ダイオードの発明」です。日本人の努力により、待ちに待った青色のLEDが発明されました!

Ladislav Markuš / CC BY-SA
ニュートンは白色の光を分けることで世界の科学を進歩させましたが、現代の科学者はその逆に、光を混ぜて白色を作ることで科学を進歩させました。

🌈 水というプリズムが作る虹
雨上がりや滝に綺麗な虹ができる理由も、プリズムとほぼ同じです。

🌈 虹は、主に以下の条件が揃ったときに発生します。
- 空中に水滴があること
- 太陽が背後にあること
最低でもこの2つの条件が揃うと、虹が見える可能性が高くなります。

背後からの太陽光が水滴に差し込むと、水滴で「屈折→反射→屈折」を経て跳ね返り、目に飛び込んできます。そのとき白色光は、屈折率が違う色の光線にバラバラになって目に届きます。これが虹が見える理由です。

光を屈折させるなら、水でも何でも、プリズムの変わりになることができます。
ピンク・フロイド『狂気』のジャケットは、まさにプリズムとそこから出ていく虹を表現した、芸術性の高いものだったわけですね。
太陽光とプリズムを使って、そのジャケットを実際に再現したファンも存在します。

左がジャケット、右がプリズムで再現した写真。角度は違いますが、そっくりですね。
ちなみに、ピンク・フロイドの伝説的アルバム『狂気』を聴いても、芸術性が高すぎて最初は何がいいのか分からないと思います。
しかし、大人になって味わうほど、とても素晴らしいアルバムであることに気づきますよ。
📚 おすすめ参考文献
📖 参考になった書籍
・光と重力 ニュートンとアインシュタインが考えたこと 一般相対性理論とは何か (ブルーバックス)
著者のニュートンとアインシュタインに対する尊敬の念が見えます。
ニュートンが行ったプリズムの実験、そしていかにして2000年以上続いた常識をぶちやぶり、「白色光は、様々な色の光線が混じったものである」という重要な結論を導いたのか…。
実際のニュートンのノートと共に、丁寧に解説されています。
・いやでも物理が面白くなる〈新版〉 「止まれ」の信号はなぜ世界共通で赤なのか? (ブルーバックス)
こちらでも、ニュートンのプリズムの実験が詳しく書かれています。
特に、「なぜ虹が見えるのか?」に関する解説がとても分かりやすくて参考になりました。
▶️ 参考になったビデオ
プリズムを自作するビデオ。プラスチックのパッケージとレジンだけでプリズムを作っています。
興味のある人は作ってみては?白色光はスマホの懐中電灯モードでOK!
📱 参考になったページ
・スペクトルの謎 啓林館のサイト、充実しています。
・実験6 太陽で虹をつくろう プリズムと光の関係を理解させるための理科授業報告。細かくて素晴らしい。
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