錬金術とは、実際は鉄くずなど価値の低い金属から、金(ゴールド)を作り出すために研究された技術です。昔の錬金術師たちは、「何とかして、鉄などから金を作ることができるはずだ!」と信じて研究を続けてきました。
その努力も虚しく、今までの歴史上で人類はまだ、鉄などの安い金属から金(ゴールド)を作ることに成功していませんし、そもそも不可能であると考えられています。
しかし今までの錬金術師たちの膨大な実験と研究の記録は、現代社会の大きな役に立っています。金属に関する資料が充実したお陰で、人類は金属を自由に操って便利な社会を実現できたからです。
1800年代に生きたドイツの首相、ビスマルクは「今のドイツには、鉄と血が必要だ!」と演説で訴えかけ、ドイツ統一を成し遂げた政治家として有名です。
彼が言う「鉄」とは、大砲や鉄砲玉、戦闘機などの武器のこと。このように、「鉄」をたくさん持っていることこそ、国の強さや繁栄を現すと考えられた時期もありました。日本でもビスマルクの演説に刺激され、「鉄は国家なり」という言葉も生まれたほどです。
今もなお、鉄をはじめとした金属を理解することこそ、現代社会の発展にとって重要です。
✨ 金属の特徴
世の中の物質は、
- 生物由来の有機物
- それ以外の無機物
に分類することができました。例えば人造人間(ホムンクルス)や便利なプラスチックを作りたい場合、錬金術師(化学者)は有機物を主に研究しなければなりません。
しかし物質を分類するもう一つの方法として、
- 金属
- 非金属
に分類することでもきます。金(ゴールド)やプラチナを錬成するために錬金術師が主に研究していたのは、もちろん金属です。
金属 | 金、銀、銅、鉄、アルミニウム、プラチナ… |
非金属 | プラスチックなどの有機物、ガラス、水、空気… |
金属の性質
鉄、アルミニウム、白金(プラチナ)、金、銀、銅…などなど、身の周りにはたくさんの金属があります。
これら金属に共通する特徴として、
- 金属光沢 (磨くと光る)
- 展性 (叩くと広がる)
- 延性 (引っ張ると伸びる)
- 電気や熱をよく伝導する
といった特徴があります。これら全ての性質を持つ物質があれば、それは金属と言えます。
金属光沢
金属はなんと言ってもピカピカ光るところが美しい。一見ボロボロになっている金属も、一所懸命に磨けば輝きを取り戻します。
パソコンやスマホで言えば、Apple社の Macbook や iPhone は圧倒的な高値にも関わらず、とても強い人気があります。性能も優れているのですが、そのアルミで覆われたボディの光沢が人気の秘密。
この世で最も高値がついている金属は、やはり金(ゴールド)です。2020年10月時点では、たった1gに約7,000円の値がついています。金がとても高いのにはたくさん理由がありますが、このきれいな金属光沢も理由の一つです。
このように、金属光沢には人を惹きつける魅力があります。錬金術師が金(ゴールド)を追い求めたのも頷けます。
加工のしやすさ(展性と延性)
金属は加工するのにとても便利です。例えば、金属をガンガン叩いていくと薄く広がっていく特徴があります。この特徴を展性(てんせい)といいます。
金閣寺に使われている金箔は、金をガンガン叩いて薄く伸ばしたものです。1gの金を叩いて伸ばすと、なんとちぎれずに5㎡まで広がります。アルミホイルも、アルミニウムを広げたもの。
また、金属は引っ張ると伸びます。なんと1gの金を引っ張って伸ばすと…、約3kmも伸ばすことができます。この性質は延性(えんせい)といいます。金属に延性があるからこそ、丈夫なロープを作ることができます。
金属の展延性は加工にかなり便利で、工場のプレス加工によりたくさんの製品が作られています。
非金属には展性と延性がありません。プラスチックや非金属を叩いても、砕けてバラバラになってしまうだけ。金属の展延性は、とっても便利な性質です。
電気や熱をよく伝導する
熱をよく伝えてくれるので、金属はやかんや鍋として活用しやすいです。もちろん、取手の部分は熱を伝えにくいプラスチックやゴムで覆われています。
しかし金属のもっと大切な性質は、電気をよく通すことです。明かりをともしたり、機械を動かすために電力が必要であり、今の世の中、電気なければ何もできません。電気がなければたくさんの人間が死ぬことになります。
そんな電気を運ぶときには、電気をよく通す金属が電線として大活躍します。
電気が流れる導線が人間に触れることがないように、導線は必ず電気を通さないゴムやプラスチックで覆われています。
❓ 「金属か非金属か」迷うもの
金属の特徴は、以下のようにまとめられます。
- 金属光沢があってカッコいい
- 展延性を持ち、とても加工しやすい
- 生活に不可欠な、電気と熱を運んでくれる
まさに金属は、人間にとって奇跡的に便利な素材だといえます。
実は金属であるもの
- 亜鉛
- カルシウム
- マグネシウム
これらはサプリメントでよく見る、栄養素として有名ですね。
しかし実はこの3つはもともと立派な金属。ミネラルとして人間に不可欠な栄養素ですが、人間は無機物を生成できないため、食べ物から摂取するしかありません。
金属 | 金、銀、銅、鉄、アルミニウム、プラチナ、亜鉛、カルシウム、マグネシウム… |
非金属 | プラスチックなどの有機物、ガラス、水、空気… |
普通の金属は、食べると体に大きな毒になります。しかし、むしろ摂取しなければならない金属もあるわけです。
実は金属ではないもの
あとは、ダイヤモンドやルビーのような宝石はピカピカしていますが、これらは金属ではありません。鉛筆やシャーペンの芯に使われる黒鉛も、電気を通しますが非金属です。
ダイヤモンドなど、宝石は非金属。とっても硬いですが、強く強く叩けば砕けるだけ。広がったり伸びたりはしません(展性や延性がない)。
金属は磁石にひっつく?
最も身近な金属といえば「鉄」。鉄と言えば、磁石にひっつく性質があります。
磁石を利用した機械もとても多いので、その意味でも鉄は貴重な存在です。
そして身近な金属である「鉄」が磁石にひっつくため、「金属は磁石にひっつく!」というイメージがあります。
しかし!磁石にひっつく金属は、鉄と他数種類。金、銀、銅、アルミニウム…などなど、ほとんどの金属は磁石にひっつくことはありません。
その証拠に、同じ缶でもスチール缶は磁石にひっつきますが、アルミ缶は磁石にひっつきません。
🚂 鉄は国家なり
- 🏭 工場
- 🚗 自動車
- 🚉 電車
- 🛫 飛行機
- 🏢 建物
- 💻 電子機器
- 🏥 医療機器
…などなど、金属の利用なしに社会は絶対に成立しません。硬くて強靭な素材としても、電気を伝える物質としても、無くてはならない存在です。
冒頭に紹介したビスマルクの「今のドイツには、鉄と血が必要だ!」という言葉の意味は、当時の日本人も十分に理解していました。明治政府は1901年、福岡県に八幡製鉄所を作り、たくさんの鋼鉄を生産し、日本を強い国にしようと考えていました。
良質の鉄を作るのは化学の力
金属は普通、鉱山から採掘して取り出します。
しかし、純粋な金属(金、銀、銅、鉄など)が採れることはありません。金属が酸化していたり、不純物が混ざった石として採掘されます。例えば鉄を含むこういった鉱石は、特に鉄鉱石と呼びます。
鉄鉱石を溶かしたり、他の物質と混ぜたりして不純物を取り除き、良質の鉄にするのが製鉄所の仕事です。
「どうすれば、たくさん効率的に鉄鉱石を良質な鉄にできるだろうか?」という疑問に答えるヒントと経験こそ、錬金術師(化学者)が持っているものです。金(ゴールド)は作れなくとも、社会の発展に大きな貢献をしたのが錬金術師であり、それを現代の化学者が受け継いでいます。
📚 おすすめ参考文献
📖 参考になった書籍
・知られざる鉄の科学 人類とともに時代を創った鉄のすべてを解き明かす (サイエンス・アイ新書)
一番身近で、産業に重要視される金属といえば鉄。その鉄を分かりやすい言葉とイラストで説明してくれる本です。
産業としての鉄だけでなく、
- 日本刀
- 地球
- 血液
などなど、普段は気づかないような鉄の役割にもしっかりスポットライトが当てられています。この本を読んで、知られざる鉄の奥深さを知りましょう。
📱 参考になったページ
・人類が初めて利用した金属=銅 ~知られざるその性質~ 特に新鮮だったのは銅の抗菌作用。50年前の10円玉でも凄い効果。
・実は金属!カルシウム なるほど。土壌に石灰岩が少ないと、水や育つ植物に含まれるカルシウムが少なくなると。人間はカルシウムが不足すると、骨を溶かしてまで補給するらしいですよ。
・金属と金属結合 NHK高校講座。情報量が多くて助かりました。
・未来を切り開く、鉄の可能性 鉄と工業について大変興味深い内容でした。
・身近なマグネット これだけ利用されているのだから、中高生は磁石も詳しく勉強するべきですね。
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