不思議な現象を起こす、魔法を本気で信じる人は現代ではなかなかいません。しかし昔の人々は、魔法は実現できるはずだと考え、研究に研究を重ねてきました。
その魔法の一つが、主に中世ヨーロッパで大流行した錬金術(れんきんじゅつ)。
錬金術とは、ある物質から全く別の物質を作り出す技術です。主に、安い金属を金(ゴールド)など貴金属に変換しようと考えた学者が多いことから、錬金術と呼ばれています。
実験室にて膨大な書物を読み込み、実験を繰り返して研究をしていた中世の錬金術師たち。彼らが実験室で作り出そうとした物質は、
- 🏅 金(ゴールド)など貴金属
- 🧪 不老不死の薬
- 🦵 人間 (ホムンクルス)
など、人工的に作るなんて考えられないものが対象でした。
鉄くずから金(ゴールド)ができたり、あらゆる物質を調合して不老不死の薬ができたり、人間を作り出せたら…。考えただけでもワクワクする、魔法のような技術が錬金術です。
しかしこういった技術は人間に許された力を超えてしまい、神様の怒りを買ってしまう危険があります。したがって当然、錬金術の研究を禁止する国王もいるほど、禁断の技術として発展を遂げてきました。
『鋼の錬金術師』という有名な漫画を知っていますか。
主人公のエドとアルのエルリック兄弟は、幼い頃に大好きな母親を亡くします。悲しんだ2人は猛勉強を重ねた後、なんと錬金術により母親の魂と肉体を作り出し、母親を蘇らせようとします。
しかし錬金術で人体を作ることは簡単ではありません。最終的に失敗してしまい、禁断の技術に手を出した反動として、兄は腕と足、弟は体全部を失ってしまいます。
「母親の人体錬成」は大失敗しましたが、兄弟は自分たちの失った体を取り戻すため、「賢者の石」を求めて旅に出ます。
もちろん『鋼の錬金術師』は漫画/アニメの世界ですが…、これから学ぶことになる理科の一分野「化学」では、まさしく現実の錬金術を学びます。今後も錬金術が進歩すれば、いつか死者を蘇らせることが可能になるかもしれません。
🧫 錬金術師の研究対象「物質」
錬金術とは、既に入手可能な物質から、金(ゴールド)や人間、不老不死の薬などの新しい物質を作り出す技術です。このときの物質とは例えば、
- 鉄
- 鉛
- 塩酸
- 肉
などが挙げられます。つまり物質とは、物体の材料に着目したもののことです。だから錬金術師は、この世にある物質という物質を知り尽くすのが仕事です。材料を知り尽くさなければ、目的物を作ることができないからです。
物体と物質
例えば1本の木を伐採して、机と椅子とコップを作ったとしましょう。机と椅子とコップは、3つそれぞれ違う物体です。
しかし材料は同じ一本の木からできています。この場合、3つの物体は、物質としては同じです。物質としては、どれも木です。
このように、身の回りのものには物体としての側面と、物質としての側面があります。錬金術師は、世界中の物質について、徹底的に研究した人たちです。たくさんの物質について深く知ることで、自由に物質や物体を作り出すことができるからです。
これから学ぶ「化学」ではまさに、錬金術師のように物質を学んでいくわけです。
有機物と無機物
物質について知るために、有機物と無機物はとても大切な分類です。この宇宙に存在する物質は全て、有機物と無機物に分けることができます。
「有機」とはそもそも、「生命を持つもの」という意味があります。したがって、
- 🍖 肉
- ✋ 皮膚
- 💇♀️ 髪の毛
など、生物(動物)が作り出すものが有機物です。
他にも、
- 🌴 木
- 🥄 砂糖
- 🍠 でんぷん
- 🕯 ろう (植物の油からできている)
- 🧪 エタノール (砂糖などからできている)
- ⛽ 石油(動植物の死骸からできる)
なども生物(植物)から作られるため、有機物です。
このように、有機物とは生命体が作る物質のことを指していました。生命体が無意識のうちに体内で生成するものこそ、有機物であると考えられていたのです。
逆に、
- 💎 鉱物(石など)
- 🏅 金属
- 💧 水
- 🧂 食塩
- 💨 空気
など、生命がいなくても自然だけで作り出される恵みは、無機物です。これら無機物は、生命体がいない時代の地球にも存在したものです。
🔥 有機物の特徴
『鋼の錬金術師』のエルリック兄弟のように、人体を錬成したいと考える錬金術師にとっては、有機物を研究することがとても大切です。筋肉や脂肪、血液は有機物からできているからです。
現代の錬金術「化学」の発達により、有機物の研究も進んでいます。
その有機物には、必ず炭素が含まれていることが分かっています。
有機物は生命体を構成するような物質ですから、石や金属などの無機物に比べて、とても複雑な作りをしています。炭素は、そんな複雑な作りを実現するのに最適な、生物にとってとても重要な役割を持っています。
したがって、今の発達した化学では「有機物は、必ず炭素を含む」と定義されています。
- 🍖 肉
- ✋ 皮膚
- 💇♀️ 髪の毛
- 🌴 木
- 🥄 砂糖
- 🍠 でんぷん
- 🕯 ろう (植物の油からできている)
- 🧪 エタノール (砂糖などからできている)
など、動物や植物から作られるものは全て、炭素が含まれていることになります。複雑な有機物でできている動物や植物は、炭素の集まりであると言えます。
人間の60~70%は水なので、水以外の筋肉や脂肪はほとんど炭素でできていることになります。
「有機物とは、炭素を含む物質のことです」と教科書に書いてあることが多いですが、厳密には間違いです。例えば二酸化炭素は炭素を含みますが、無機物です。ダイヤモンドも炭素ですが、無機物です。
そもそも、有機物と無機物にハッキリとした境界線はなく、都合がいいようにテキトーに分類されているからです。
しかし本来は、「生物由来のもの」が有機物であると考えられていました。今も、そのように考えて分類して問題ありません。
有機物を燃焼させる
錬金術師は、あらゆる物質をいじくり回して性質を調べます。
- 🔥 熱してみる
- ✊ つぶしてみる
- 🍦 溶かす
などが主な方法です。そして有機物の性質がよく分かる方法は、有機物を熱することです。
上記のような集気びんの中で、何でもいいから有機物(砂糖、ろう等)を熱してみます。
炭素が含まれているので、熱すると黒く焦げて炭になります。
さらに有機物が燃えた際、一部の炭素は酸素とひっついて二酸化炭素となり、びんの中を漂うことになります。つまり、熱したときに二酸化炭素が発生したのなら、それは有機物であることが分かります。
二酸化炭素には、石灰水を白く濁らせる性質があります。石灰水は無色透明ですが、ストローで息を吹きかけると、息の二酸化炭素に反応して石灰水が白くなります。
集気びんの中にあらかじめ石灰水を入れておけば、有機物を熱した後に集気びんを降ると、石灰水が白く濁ります。
二酸化炭素は目に見えないので、本当に二酸化炭素が発生しているのかどうか、そのままでは分かりません。石灰水を使うことが便利です。
さらに、実はほとんどの有機物は、炭素の他に水素も含んでいることが通常です。したがって、有機物を熱すると、水(水蒸気)が発生します。
有機物を熱したときの反応をまとめると、以下のようになります。
びんが曇ると、「この曇りは水蒸気でしょう」という人がいますが、水蒸気とは目に見えない気体です。曇りは目に見えているので、水蒸気ではなくて水です。
無機物を熱すると?
特にヨーロッパの錬金術師は長らく、無機物を中心に研究してきました。なぜなら彼らの目的は金(ゴールド)を錬成することだったからです。金は無機物なので、それを作るため、
- 鉄などの金属
- 岩石などの鉱物
などの無機物を中心に研究を続けていました。研究を続ければいつか、金や不老不死の薬を作るための「賢者の石」を生成できると信じていたからです。
砂糖などの有機物は炭素を含んでいるため、熱するとすぐに黒く焦げて炭になってしまいます。
しかし無機物は強く熱してもあまり変化しないため、熱した後の物質を詳しく研究することができたのです。
熱したときの反応 | 炭になる? | 二酸化炭素ができる? | 水ができる? |
---|---|---|---|
有機物 | Yes | Yes | Yes |
無機物 | No | No | No |
📚 おすすめ参考文献
- 理科室での化学実験
- 化学反応式
などが化学のメインですが、人によっては全く身近に感じられずに面白みがなくなる場合があります。
しかし化学を、金や不老不死の薬、人造人間(ホムンクルス)を作る「錬金術」の観点から捉えると一気に面白くなってきます。
『鋼の錬金術師』は漫画の世界であって、その錬金術の描写は化学的に厳密ではありません。しかしそれでも楽しい漫画なので、錬金術(=化学)を前向きに学ぶキッカケになる可能性を秘めています。
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