1800年代後半、アメリカでは空前のビリヤードブームが起こっていました。主に富裕層の遊びとして流行し、次々とビリヤード場がオープン。とても大きな娯楽産業に成長します。

ビリヤードのテーブルや球は、とても高価なものだったので、普通の人が購入するのは難しかったといいます。
例えばビリヤードボールは非常によい質が求められましたが、その基準をクリアしている物質は、象の牙、つまり象牙だけでした。

ビリヤードボールは合計16個ありますが、たった16個のボール作るためには、象1~2頭の象牙が必要でした。当然、ビリヤードボールを作るため、たくさんの象が殺されることになります。

Polygoon – Hoe biljartballen worden gemaakt from KNBB – Biljart TV on Vimeo.
ビリヤード業界は、象を殺して牙を採ることで成立する業界でした。どんどん象は死んでいき、象牙はより貴重な物質となり、結果的にビリヤードボールもどんどん高価なものになってしまいました。
🐘 錬金術師、象牙の錬成にチャレンジ
ビリヤード企業は安くボールを作れなくなってしまい、なんとしてでも象牙の代わりになる材料を見つけたいと思っていました。そこで、「もし、象牙に代わるような素晴らしい材質を発明できたら、1万ドルを支払う!」という懸賞を出すことにします。当時の1万ドルは、今で言えば3000万円ほど!
均一に固くて割れず、重みも手触りも高級感がある象牙はとっても便利な材質でした。象牙の固さや高級感があり、しかも安く安定的に製造できるような、夢のような材質を0から作ることができる人間は、どんな人でしょうか….?
そう、錬金術師の出番です。
ハイアット、懸賞にチャレンジ
ハイアットという男は、「象牙に代わる材質を発明できたら1万ドル払う」の懸賞を見て、象牙に代わる材質づくりのチャレンジを試みます。

1837~1920
ハイアットは化学者つまり錬金術師ではありませんでしたが、印刷業でよく利用されたニトロセルロースという物質を使用し、セルロイドという物質の開発に成功しました。セルロイドは、工業用に利用されたものとしては、人類初のプラスチックであると言われます。
彼が作ったセルロイド製のビリヤードボールは衝撃に強く均一な質を保ち、遥かに安く作ることができました。

https://americanhistory.si.edu/collections/search/object/nmah_2947
しかし、やはりまだまだ不十分なところもあり象牙製のボールには敵わず、全員のプレイヤーを満足させることはできませんでした。そして残念ながら、彼は懸賞金の1万ドルを手にすることはありませんでした。
ただ、彼の努力は無駄にはなりません。このときハイアットが発明したセルロイドは、人類のプラスチック製造の可能性を爆発的に発展させることになりました。
便利で日常生活に欠かせないプラスチック登場
当時の人々は、何かものを作るとき、象牙のような自然物から採取するのが普通でした。まさか、象牙に似た材質を人間が作り出せるなど思ってもみなかったのです。
しかしハイアットのセルロイド製ボール開発をきっかけとして、プラスチックを材料に、
- 🦷 入れ歯
- 👱♀️ 髪をとかす櫛
- 🔪 ナイフの柄
- 🎹 ピアノ鍵盤
などが製造されていきました。ハイアット自身も、ビリヤードボールなどをセルロイド(プラスチック)で製造する会社を作り大成功を収めたといいます。

自然物から採取するのでなく、自分の思い通りの材質を作り上げて成功したハイアット。これは一種の錬金術だと言えますし、錬金術で象を守ったことは素晴らしい業績です。
現代の錬金術師である化学者は、「社会に役立つ、便利な物質を作る」ために日々研究実験を繰り返しています。
⛽ 石油から作られるプラスチック
身の回りにはプラスチックで満ち溢れています。
- ペットボトル
- レジ袋
- 服
- サランラップ
- 家電製品
- 合成ゴム
など、数えるときりがありません。何の材質か分からないものがあれば、それはプラスチックであることが多いです。
便利すぎるプラスチック
なぜ世界にプラスチックが溢れているのか、それは、
- 安い
- 軽い
- 丈夫
- 錆びない
- 腐らない
- 加工しやすい
- 着色が自由
- 電気を通さない
…などなど、何かの材料にするには素晴らしい性質を持っているからです。

いろいろなメーカーが、現代の化学者(錬金術師)にプラスチックの研究をお願いするのも当然であるといえます。
身近なものだけでなく、飛行機や自動車などの大きな産業もプラスチックが支えています。

『みんなの試作広場』 より
プラスチックの有効性を気づかせるきっかけを作った人物こそ、象牙に代わるビリヤードボールを作ったハイアットです。
石油に目をつけた化学者
ハイアットが利用したセルロイドは、植物が原料であるため、樹脂と呼ばれます。ゴムも植物由来で作られることが多いので、樹脂の一種です。
しかし現代では、大量生産するため、プラスチックは主に石油から作られています。

採掘された原油は、精製工場でいろいろな用途に対応した石油製品に分類されます。
プラスチックはその中でも、車のガソリンに利用されるナフサと呼ばれる部分から作られます。

プラスチックは、石油(ナフサ)から人工的に樹脂に似たものを作るため、人工樹脂とも呼ばれます。石油から生まれる合成ゴムも、プラスチックの一種です。
🔥 有機物としてのプラスチック
石油は、プランクトンなどの生物の死骸が長い年月をかけて変化したものであるとされています。ということは当然、石油は有機物です。
したがって、その石油からできているプラスチックも有機物です。

有機物とは「生物の体内で作られるもの」といった意味がありましたが、
- ペットボトル
- プラスチックのコップ
などは、全く生物のように感じませんよね。しかし原料が石油である以上は、プラスチックは有機物。化学者(錬金術師)は石油を利用することにより、便利で多様なプラスチックを自由に錬成する技術を手に入れたのです。
当然プラスチックは石油(ナフサ)からできた有機物であるため、
- 炭素と水素を含んでいる
- したがって熱すると二酸化炭素と水ができる
という特徴を持っています。
プラスチックと環境問題
プラスチックは環境に非常に悪いことでも知られています。2020年にはコンビニやスーパーのレジ袋(プラスチック)を有料にすることが義務化されました。
コーヒーショップやタピオカ屋でも、ストローをプラスチックから紙製に変えるところも出ています。

プラスチックは自然界で分解しないため、最後はゴミとして永遠に海に漂い、海の塩分に極小のプラスチックが漂い、動物がそれ食べて被害を受けてしまいます。当然、その魚を食べた人間もプラスチックを食べることになります。
鼻にストローが埋まってしまったウミガメの有名動画があります。この動画は世界中で拡散され、人々がプラスチックの環境問題について考えるきっかけになりました。
海や土の中に残ったプラスチックは決して分解されないため、時間とともに蓄積する一方です。長い年月が経過すると、海はプラスチックで埋まり、動植物も人間も絶滅するでしょう。人類は、プラスチックのゴミを減らす努力が必要です。
もしくは、現代の錬金術師(化学者)が取り組んでいる、生分解性プラスチックの開発状況を見守ることが大切です。

http://www.jbpaweb.net/gp/
📚 おすすめ参考文献
📱 参考になったページ
・生分解性プラスチック入門 生分解性プラスチックの実際の分解の様子が分かります
・化学者のつぶやき プラスチックの利便性と、環境への悪影響を考えるよいきっかけになりました。
・レジ袋有料化から考える ゴミ袋の売れ行きが伸びる矛盾 2020年に始まったレジ袋有料化の理由や人々の反応
・Imitation Ivory and the Power of Play ハイアットが象牙に代わる材質づくりにチャレンジし、プラスチック作りを成功させた話
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