化学とは、
- この世のあらゆる物質の性質を、詳しく研究する
- それらを組み合わせ、驚くべき新物質を生み出す
といった、魔法使いのような学問です。
金(ゴールド)や不老不死の薬を作り出そうとした錬金術師の研究が今も役に立っているのは、そういった貴重な研究結果がたくさん残されているからです。

化学者(錬金術師)のように物質の性質を詳しく研究するためには、まず純粋な物質を手に入れなければなりません。混合物を研究しても、その性質がどこから来ているのかが分からないからです。
しかし、自然に存在する物質はほとんど、何かしらの不純物が混ざっている混合物です。

したがって、純度の高い物質は、人間が自ら作り出す必要があります。でも、化学者たちはどうやって純粋な物質を得ているのでしょうか?
物質の純度を高める方法としては、以前に物質を分離する「ろ過」の方法を学びました。
今回は、混合物を分離して純粋な物質を取り出す高度な技術、「再結晶」を学びます
この方法は溶解度曲線をうまく利用した、非常に賢い錬金術師の技術です。
📈 ミョウバンと溶解度曲線
まず一例として、ミョウバンの溶解度曲線を見てみましょう。

この溶解度曲線は、ミョウバンの各水温による溶解度を表していますね。
ここで例えば、
「水温が70℃の100gの水(お湯)があり、そこにミョウバン40gを溶かした」
といった具体的場合を想定してみます。

ミョウバン水溶液を棒グラフで表す
これを溶解度曲線の中に描き込むと、以下のようになるはずです。

70℃のお湯100g に、40gのミョウバンを加えて溶かしています。これを黄色い棒グラフで表現できました。
前回のデータでは、ミョウバンは70℃のお湯100g には110.1g まで溶けますから、この水溶液には、まだミョウバンが 70.1g も溶ける余裕があります。

つまり、これはまだ飽和水溶液ではありません。
さて、この状態から、70℃の熱い水溶液が冷えるとどうなるでしょうか?
水溶液が冷えると、飽和水溶液になる
この水溶液が徐々に冷えていくとしましょう。
冷えたからといって、中に溶けているミョウバンの質量は変わりません。

従って、棒グラフを横にスライドすることで表現することができます。
溶解度曲線とぶつかるまで、左にスライドしてみましょう。

約52℃あたりで、溶解度曲線とぶつかりました。
表を読むと、ミョウバンは約52℃で溶解度が40なので、このミョウバン水溶液は飽和水溶液となったことが分かります。
飽和水溶液ではなかったものも、冷やすだけで飽和水溶液に変わるなんて、面白いですね。
さらに冷やしてみると?
約52℃で飽和水溶液になりましたが、これをさらに、40℃まで冷やしてみましょう。

すると、移動した黄色い棒グラフが、溶解度曲線を突き破ってしまいました。
水溶液には40g のミョウバンが溶けていますが、
100gの水が40℃まで冷えた今、ミョウバンは24.0g しか溶けないはずです。
従って、差し引いた 16g は溶けきれなくなり、コップ内に現れることになります。

実際にこの水溶液を40℃まで冷やせば、ビーカーやコップの中に16g のミョウバンが現れます。
さらに20℃まで冷えると、40-11.5 となり、28.5g のミョウバンが現れるでしょう。

実際にこの実験を行うと、以下の写真のように溶質が現れてきます。

http://www.reciprocalnet.org/edumodules/crystallization/index.html
冷えれば冷えるほど、たくさんの物質が溶けきれなくなっていますね。
出現するミョウバンの結晶(再結晶)
このときに姿を見せる物質は、規則正しい形の固体、結晶(クリスタル)の形をします。
この実験をミョウバンで行うと、以下のような形の、綺麗な結晶が出現します。

ミョウバンの結晶は正八面体の形。
これくらい綺麗な結晶を得るには技術が必要
上の写真にある綺麗なミョウバンの結晶は、小さなミョウバンの結晶をじっくり大きく育てたものです。
通常は、小さな粒だけがコップやビーカーに出現します。

このように、「最初に物質を溶かし、そして溶液から新たに結晶として取り出す」技術を再結晶といいます。
🧫 物質の純度を高める再結晶
この再結晶は、化学者にとって大切な技術です。例えば、ミョウバンにいくつかの不純物が混ざっている混合物があったとしましょう。
しかし、ミョウバンの性質を研究したい場合は、できるだけ純粋なミョウバンを手に入れる必要があります。

固体同士の混合物なので、ろ過を使うことができません。そこで化学者は一旦、不純物の混ざったミョウバンを温めた水に溶かしてしまいます。
その後、ゆっくりじっくり水溶液を冷やして、ミョウバンの結晶だけを取り出すのです。
不純物がまだ水に溶けたままならば、出てきた結晶は純度の高いミョウバンになっています。

化学者は、「ろ過」や「再結晶」を駆使して、物質の純度を高めているのです。
❄ 硝酸カリウムの再結晶
硝酸カリウムでも同じ実験をやってみましょう!
60℃の水100gに対して、70gの硝酸カリウムを溶かしたとしましょう。

硝酸ナトリウムは、60℃のときに溶解度が 106です。従って、まだあと36g 溶かすことができます。

この図に、
- 40℃まで冷えた場合
- さらに20℃まで冷えた場合
の2つの棒グラフを描き込んでみます。

冷やせば冷やすほど、たくさん再結晶するわけですね。
硝酸ナトリウムの結晶

https://mad-science.wonderhowto.com/news/contest-potassium-nitrate-crystals-0135415/
硝酸カリウムの再結晶がうまくいけば、ミョウバンとは違い、縦長の結晶が得られます。綺麗ですね。
❄ 塩化ナトリウムの再結晶
同じ実験を、塩化ナトリウムでもやってみます!
100gの水を100℃まで沸騰させたとして、そこに38gの塩化ナトリウムが溶けているとします。

100℃の熱湯では、塩化ナトリウムは水100gに39g 溶けるので、あと1gの塩化ナトリウムが溶ける余裕があります。
かろうじて、まだ飽和水溶液にはなっていません。
これを、再結晶のため、思い切って0℃まで冷やしてみましょう。

塩化ナトリウムの溶解度曲線は横ばいなので、
- 100℃では 39.0
- 0℃では 35.7
となり、水温による変化がほとんどありません。
結果、今38g 溶けている水溶液を、100℃も冷やしたのに、再結晶で得られるものは38 – 35.7 の、たった 2.3g の塩化ナトリウムのみでした。
塩化ナトリウムは水温による溶解度の変化が小さいため、冷却しただけでは再結晶しにくいと言えますね。
塩化ナトリウムの結晶
塩化ナトリウムの結晶は、サイコロのような形をしています。

結晶の形は物質それぞれで、個性があることを知っておきましょう。

👩🔬 『純粋な物質』を求める錬金術師(化学者)の姿勢
これまで、錬金術師(化学者)ができるだけ純粋な物質を得るための技術として、
- ろ過
- 再結晶
の2つを学びました。いずれも、
など、化学の知識を応用した、とてもスマートな方法です。化学を学ぶときは、そういった知識を学ぶだけではなく、先人の創意工夫を学んでいることも自覚していきましょう。
ぜひ、もう一度グラフをしっかり読んで、今日学んだことを完全に理解できるか、自分を試してみてください。きっと学ぶうちに、知らぬ間に「化学者の姿勢」がついているはずです。
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