さぁ、この素晴らしい写真を1分間見つめて、心ゆくまで自然の美しさを感じてください。

澄んだ湖が富士山を綺麗に映し出しています。これは「逆さ富士」と呼ばれ、この写真は山梨県の山中湖からのもの。
富士山を鏡のように映している湖。まだ鏡がなかった数千年も前では、水こそが唯一の鏡でした。
しかし、なぜ、水は物体をこんなに綺麗に映すのでしょうか……?
実は私たちは、光に騙されているのです。今回は、光が私たちに見せる、いや魅せる虚像(バーチャルイメージ)について、ユークリッドの反射の法則をもとに学びますよ。
👀 乱反射により見える物体
『光の直進から速さまで、光と科学者2000年の歴史』では、「物体が見えるのは、反射した光が目に入るからである」ことを学びました。

そしてそれをもっと詳しく学ぶために、ユークリッドの「反射の法則」をアポロ計画を交えて詳しく学んだはずです。
鏡面反射(正反射)
光が何かにぶつかるときは、入射角と反射角は必ず同じになります。

こういった、鏡のような反射を「鏡面反射(きょうめんはんしゃ)」や「正反射」といいます。
乱反射
しかし、実はこんな綺麗な反射は、「鏡のようにツルツルの物体にぶつかったとき」だけ。普通の物体は、こんなに表面がツルツルしていません。
例えば机。机の表面は、指で触るとツルツルにしか思えません。しかし顕微鏡のレベルで見ると、とってもザラザラしています。

したがって、机の表面に光が当たっても、鏡のようにキレイに反射することがありません。

こういった、「表面がザラザラだから、バラバラの方向に光を反射する」ことを乱反射といいます。

表面が本当にツルツルしているのは、鏡くらいのもの。だから、身の回りのほとんどの物体は、光を乱反射します。

乱反射するのは、表面がザラザラだから。細かいレベルで見ると、「入射角=反射角」の反射の法則はここでも当てはまりますよ。

ありがたい乱反射
この乱反射、人間にとっては非常にありがたい存在。なぜなら、乱反射がなければ物が見えにくいのです。
例えば、リンゴが乱反射せず、鏡面反射していたとしましょう。そうすると、ある位置からはリンゴが見えなくなってしまいます。

👆画像の左下に光源があるとすると、Aからはリンゴが見えても、Bからはリンゴが見えません。
乱反射してくれるからこそ、物体はどの角度からも見ることができます。

そもそも、鏡のように「鏡面反射(正反射)」しないからこそ、鏡にならずにすむわけです。
乱反射により、物体の場所が分かる
人間は、物体から乱反射された無数の光を両目で受け取ることで、物体を詳しく目に映します。

乱反射の光を、広い範囲で両目で受け取ることにより、リンゴの立体感や大きさなどがよく分かるのです。
無数の反射光の出発点が分かることが、目にとってとても大切です。
🗻 『逆さ富士』が見える理由
ここまで理解できれば、「湖面に綺麗に映る逆さ富士」の原理がすぐに分かるはず。

一度はこの目で見たいこの景色。この逆さ富士が見える理由を考えます。
富士山の頂上からの光が水面へ
頂上だけを考えます。富士山の頂上は、太陽光を乱反射するため、頂上からの光がいろんな角度で湖面にぶつかります。

👆の画像では、湖にぶつかる光のうち、一つだけをピックアップし、黄色い線にしてて描いています。
水面は鏡面反射し、ありもしない富士山を映す
水面にぶつかった「山頂からの光」は、反射の法則に従って反射します。
水はまさに、自然による鏡。表面はツルツルなので乱反射しません。波が立ち、グネグネ曲がった鏡のように考えることができます。

黄色で描いた光は、水面で反射した後、目に入ります。
しかし……、目はまさか「この光は、水面から反射してやってきた光である」ことは知りません。
本当は、光は
- 太陽光が山頂にぶつかり、乱反射する
- 乱反射した光がまた湖に反射し、目に届いた
この2つのステップを踏んで目にやってきたのですが、目はそんなこと知るよしもありません。目は「この光は直進してきたのだ」と思ってしまいます。

だから、湖の奥に逆さまの富士山が見えてしまうのです。

本当は、光は水面を反射して目に届いただけ。決して水の中から光が出てきたわけではありません。
しかし、目は乱反射のときと同じように、「光は直進して来たのだ」と思って、上の画像にあるような点線の道すじをイメージしてしまいます。
それにより、私たちの目は「水の中の、ありもしない富士山」を見せられてしまうのです。
💡 鏡が物体を映す理由
水面が物体を映す理由が分かりましたか。
ここからは、「鏡が物体を映す理由」を理解してみましょう。

目は「光は直進してきた」と思い込む
水と鏡は、同じように光を反射します(鏡面反射)。なので、
- 物体が湖に映る理由
- 物体が鏡に映る理由
この2つは全く同じです。
リンゴを例にしましょう。
リンゴで乱反射した光の一部が、鏡に反射して目に届きます。もちろん、入射角と反射角は等しく反射します(反射の法則)。

このとき、目は「リンゴからの光は真っ直ぐ来たのだ」と勘違いするので、鏡の中にリンゴがあるように見えてしまいます。


水の中に富士山が見えた理由と全く同じですね。

鏡に映る像の位置を作図する
鏡や水面に映った姿のことを、像(ぞう)といいます。それでは、鏡に映る像は、具体的にどんな場所に映るのでしょうか?

これは正確に作図することができます。

👆の図は、
- 鏡
- 物体
- 人(目)
を上から見た図です。
まず、物体から鏡と同じ距離だけ離したところに像を描きます。物体は必ず、鏡と対照な位置に映ります。

鏡は、必ず鏡と物体と同じ距離(対照な位置)に像を映します。
目と像を結び、光の道筋を描きます。

鏡から像の線は、目が勝手に想像するラインなので、点線で表現しています。
あとは物体から鏡にぶつかる線を描き入れれば、自然と「入射角 = 反射角」の光の道すじが完成します。

作図により、鏡の中の像の位置を描き入れることができました。
👇を見て、「鏡に映る像の位置と、光の道すじ」を作図する順番を復習してみてください。

作図の順番は、実際の光の道すじと同じように、以下のように入射光から描いた方が分かりやすいかもしれません。

しかしこの順番で描くと、たまに「入射角と反射角を等しくなる点」が少しわかりにくくなるので注意。

なので、以下のように先に対照の位置に像を描いてしまえば自動的に「入射角 = 反射角」となって便利です。マス目がなくても楽勝です。

物体が鏡に映る位置/映らない位置も分かる
この作図ができれば、「物体が鏡に映るのか映らないか」もすぐ分かるようになります。
例えば以下の図では、物体は鏡に映りません。

「入射角 = 反射角」となるような点に、鏡がありません。もう少し鏡に近づくなどして、物体が映るように工夫する必要がありますね。

👆のように、目を1マス分近づければギリギリ鏡に映ることになります。
👩💼 鏡に自分が映る理由
では次に、「鏡に自分が映る理由」を作図で理解できるようになりましょう。

体の一番上と下だけを考える
本来は、無限の光が体で乱反射し、鏡にぶつかっています。
しかし作図する場合は、
- 体の一番上(頭頂)
- 体の一番下(つまさき)
の見え方だけを描けば、十分に体全体の鏡の映り方が分かります。

頭頂部が映る場所を作図する
基本は先程の作図と全く同じ。
まずは、「頭頂部と鏡」と同じ距離だけ離れた部分に、鏡の中の頭頂部を描き入れます。

次に、鏡の中の頭頂部の点から目に向かって線を引いてみましょう。

これで自分の頭頂部が映る位置の作図ができました。この手順で作図すれば、入射角と反射角は等しくなっているはずです。


つま先が映る場所を作図する
体の一番下である、つま先も同様に作図してみましょう。
つま先部分を、鏡の中に描き入れます。

次に鏡の中のつま先から、目に向かって線を引きましょう。

あとは、つま先から鏡に向かって線を引けば、自然に「入射角 = 反射角」となっているはずです。

鏡の中の自分の作図完成
体の一番上と下が作図できたので、あとは絵のセンスを活かして、鏡の中の像を描いてあげるだけ。

光の反射により、鏡の向こうの自分が見えてしまうわけですね。鏡の中に自分はいるはずないんですけどね。
❓ 実物を見るときと、鏡の像を見るときの違い
さて、今まで光と鏡の像について説明しましたが、ここからはもっと厳密に考えてみましょう。
作図では、以下のように物体から出る一本の線だけを考えていました。

しかし厳密に考えると……、物体は光を乱反射しているので、物体からは無数の光が出ているはずですよね。
そのうちの、鏡で反射し、目に入る2本の光線を適当に描いてみます。

目は、この2本の光が反射して届いたものだとは知りませんよね。直進してきたのと同じように感じます。
すると目は、「光が来た出発点」を、「光を延長させて交わった点」だと認識してしまうのです。

目は、上図のような点線をたどって来たのだと勘違いします。
つまり私たちの目は、以下の図の①と②を区別できないのです。

- ①…乱反射した光によって物体を見るとき
- ②…鏡面反射した光によって鏡の中に物体が見えるとき
目は「光は直進している」としか考えないので、
「この光の出発点はここじゃないかな?」
と考えて延長線(点線)を勝手に想像し、ありもしないリンゴを見てしまうのですね。

逆さ富士が見える理由も、厳密には以下のような図になります。

光は無数に出ていますが、説明のためには2本だけを描けば十分です。
目は、光の出発点を探すことで、物体の位置を把握しているのです。
✨ 虚像(バーチャルイメージ)を “魅せられる” 私たち
しつこいようですが、これも全て「目が光の出発点を勝手に想像してしまうこと」が原因です。
虚像(バーチャルイメージ)と実像(リアルイメージ)
もう一度、
- 本当のリンゴを見たとき
- 鏡に映ったリンゴを見たとき
の違いを確認しましょう。

①では、実際にリンゴから光がやってきています。
しかし②では、「こららの光は、点線の道すじから来たのだろう」と勝手に出発点を想像しただけ。その出発点に、実物はない。
②のような勘違いにより見える像のことを、虚像(virtual image, バーチャルイメージ)といいます。バーチャルとは「仮想」、つまり「本当はないのに……」という意味です。
反対に、①のように実際にある物体を実像(real image, リアルイメージ)といいます。リアルとは「現実」、つまり「本当にある」という意味です。

私たちは毎日毎日、鏡や水面に映った自分を見ます。
これは、光によって騙され、毎日毎日虚像(バーチャルイメージ)を見せられているということ。ありもしないものを、見せられています。
しかし……、こんなに美しく、私たちを魅了する逆さ富士。

だから本当は、「人間は、虚像に”魅せられている”」というべきかもしれません。
虚像が見えることを幸せに思って、今はとにかく、富士の虚像に魅せられましょう。
📚 おすすめ参考文献
参考になったビデオ
Khan Academyの動画。字幕に日本語がなく残念ですが、山が湖面に映る理屈が丁寧に解説されています。
これもKhan Academy。虚像(バーチャルイメージ)の解説ビデオですが、虚像の本質は「実際にはない光の出発点を想像してしまうこと」であることに気付かされます。
こちらも日本語字幕はありませんが、関心ある方はぜひ観てみてください。
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