乱反射と鏡面反射。光に騙され、富士の虚像に”魅せられる”

虚像と乱反射 中1理科

さぁ、この素晴らしい写真を1分間見つめて、心ゆくまで自然の美しさを感じてください。

山中湖からの富士山

澄んだ湖が富士山を綺麗に映し出しています。これは「逆さ富士」と呼ばれ、この写真は山梨県の山中湖からのもの。


富士山を鏡のように映している湖。まだ鏡がなかった数千年も前では、水こそが唯一の鏡でした。


しかし、なぜ、水は物体をこんなに綺麗に映すのでしょうか……?


有名なイソップ物語でも、水に映った自分を見て、大切な肉を失ってしまうバカな犬の話があります。

イソップ物語 犬と肉

犬は水に映っている自分を他の犬だと思い込み、「おい、そのお肉をよこせ」と水面に向かって吠え、そして口を開けた瞬間、肉を川に落としてしまいました。


はぁ……、なんて欲張りでアホな犬なのでしょう……。

The Greedy Dog | Aesop's Fables | PINKFONG Story Time for Children

『犬と肉(よくばりな犬)』の名前で知られるこのイソップ物語は、「犬ってバカだなぁ」とか、「欲張りってダメだなぁ」としみじみ楽しむためのお話です。


でもよく考えれば、

  • 湖の中に富士山が見えてしまう
  • 鏡の中に自分はいないのに、自分が見えてしまう

など、「あるわけがないのに、見えてしまう」ことってよくありますよね。絶対にそこにはないものが見えてしまうなんて……、私たちの目って意外とバカなんじゃないでしょうか?



そう。実は私たちは、光に騙されているのです。今回は、光が私たちに見せる、いや魅せる虚像(バーチャルイメージ)について、ユークリッドの反射の法則をもとに学びますよ。

乱反射により見える物体

光の直進から速さまで、光と科学者2000年の歴史』では、「物体が見えるのは、反射した光が目に入るからである」ことを学びました。

本が光を反射する

そしてそれをもっと詳しく学ぶために、ユークリッドの「反射の法則」をアポロ計画を交えて詳しく学んだはずです。

鏡面反射(正反射)

光が何かにぶつかるときは、入射角と反射角は必ず同じになります。

反射の法則

こういった、鏡のような反射を「鏡面反射(きょうめんはんしゃ)」や「正反射」といいます。

乱反射

しかし、実はこんな綺麗な反射は、「鏡のようにツルツルの物体にぶつかったとき」だけ。普通の物体は、こんなに表面がツルツルしていません


例えば机。机の表面は、指で触るとツルツルにしか思えません。しかし顕微鏡のレベルで見ると、とってもザラザラしています。

鏡の表面と机の表面

したがって、机の表面に光が当たっても、鏡のようにキレイに反射することがありません。

鏡の反射と机の反射

こういった、「表面がザラザラだから、バラバラの方向に光を反射する」ことを乱反射といいます。

鏡面反射と乱反射

表面が本当にツルツルしているのは、鏡くらいのもの。だから、身の回りのほとんどの物体は、光を乱反射します

ほとんどの物体は光を乱反射する

乱反射するのは、表面がザラザラだから。細かいレベルで見ると、「入射角=反射角」の反射の法則はここでも当てはまりますよ。

乱反射と反射の法則
いつどんなときにも成立するから「法則」を名乗れる

ありがたい乱反射

この乱反射、人間にとっては非常にありがたい存在。なぜなら、乱反射がなければ物が見えにくいのです。


例えば、リンゴが乱反射せず、鏡面反射していたとしましょう。そうすると、ある位置からはリンゴが見えなくなってしまいます。

乱反射がなければ見えない

👆画像の左下に光源があるとすると、Aからはリンゴが見えても、Bからはリンゴが見えません


乱反射してくれるからこそ、物体はどの角度からも見ることができます。

乱反射によって見える物体

そもそも、鏡のように「鏡面反射(正反射)」しないからこそ、鏡にならずにすむわけです。

乱反射により、物体の場所が分かる

人間は、物体から乱反射された無数の光を両目で受け取ることで、物体を詳しく目に映します。

目は乱反射した広い範囲の光を受け取る

乱反射の光を、広い範囲で両目で受け取ることにより、リンゴの立体感や大きさなどがよく分かるのです。


無数の反射光の出発点が分かることが、目にとってとても大切です。

「逆さ富士」が見える理由

ここまで理解できれば、「湖面に綺麗に映る逆さ富士」の原理がすぐに分かるはず。

山中湖からの逆さ富士

一度はこの目で見たいこの景色。この逆さ富士が見える理由を考えます。

富士山の頂上からの光が水面へ

頂上だけを考えます。富士山の頂上は、太陽光を乱反射するため、頂上からの光がいろんな角度で湖面にぶつかります。

富士山頂の乱反射

👆の画像では、湖にぶつかる光のうち、一つだけをピックアップし、黄色い線にしてて描いています。

水面は鏡面反射し、ありもしない富士山を映す

水面にぶつかった「山頂からの光」は、反射の法則に従って反射します。


水はまさに、自然による鏡。表面はツルツルなので乱反射しません

逆さ富士が見える原理を反射の法則で説明

黄色で描いた光は、水面で反射した後、目に入ります。


しかし……、目はまさか「この光は、水面から反射してやってきた光である」ことは知りません。


本当は、光は

  1. 太陽光が山頂にぶつかり、乱反射する
  2. 乱反射した光がまた湖に反射し、目に届いた

この2つのステップを踏んで目にやってきたのですが、目はそんなこと知るよしもありません。目は「この光は直進してきたのだ」と思ってしまいます。

逆さ富士のような虚像が見える理由

だから、湖の奥に逆さまの富士山が見えてしまうのです。

逆さ富士が見える理由
目は、「光はここから来ているのだろう」と勝手に点線を想像する

本当は、光は水面を反射して目に届いただけ。決して水の中から光が出てきたわけではありません


しかし、目は乱反射のときと同じように、「光は直進して来たのだ」と思って、上の画像にあるような点線の道すじをイメージしてしまいます。


それにより、私たちの目は「水の中の、ありもしない富士山」を見せられてしまうのです。


イソップ物語の欲張り犬も、川の中に肉を持っている他の犬がいると勘違いしてしまいました。犬の目も人間の目も、光に騙されていることに気づかないんですね。

中には、「水は鏡のようにツルツルで、乱反射しない」ことを不思議に思う人がいるかもしれません。


確かに、水は少しの風で波ができてしまうので、ザラザラ、凸凹で光を乱反射しそうに思えます。

しかし、水は表面張力というものがあり、「水面を滑らかにする」ような働きがあるのです。水は、波で曲がる鏡と考えると分かりやすい。

水面とは波打つ鏡

鏡が物体を映す理由

水面が物体を映す理由が分かりましたか。


ここからは、「鏡が物体を映す理由」を理解してみましょう。

猿と鏡

目は「光は直進してきた」と思い込む

水と鏡は、同じように光を反射します(鏡面反射)。なので、

  • 物体がに映る理由
  • 物体がに映る理由

この2つは全く同じです。


リンゴを例にしましょう。


リンゴで乱反射した光の一部が、鏡に反射して目に届きます。もちろん、入射角と反射角は等しく反射します(反射の法則)。

リンゴからの光が鏡に反射する

このとき、目は「リンゴからの光は真っ直ぐ来たのだ」と勘違いするので、鏡の中にリンゴがあるように見えてしまいます。

鏡の中にリンゴが見える
鏡にリンゴが映る理由gif

水の中に富士山が見えた理由と全く同じですね。

逆さ富士が見える理由

鏡に映る像の位置を作図する

鏡や水面に映った姿のことを、像(ぞう)といいます。それでは、鏡に映る像は、具体的にどんな場所に映るのでしょうか?

像の位置はどう決まるか

これは正確に作図することができます。

上から見た図

👆の図は、

  • 物体
  • 人(目)

を上から見た図です。


まず、物体から鏡と同じ距離だけ離したところにを描きます。

鏡に映る像の作図方法

鏡は、必ず鏡と物体と同じ距離に像を映すからです


これだけで像ができる位置が分かりましたが……、光の道すじも描きたいところです。


なので次に、目と像を結びましょう。

鏡にうつる像の位置作図

鏡から像の線は、目が勝手に想像するラインなので、点線で表現しています。


あとは物体から鏡にぶつかる線を描き入れれば、自然と「入射角 = 反射角」の光の道すじが完成します。

鏡に映る像の作図

作図により、鏡の中の像の位置を描き入れることができました。


👇を見て、「鏡に映る像の位置と、光の道すじ」を作図する順番を復習してみてください。

鏡の中の像を作図する順番
作図の順番

作図の順番は、実際の光の道すじと同じように、以下のように入射光から描いた方が分かりやすいかもしれません。

鏡の中の像の作図

しかしこの順番で描くと、たまに「入射角と反射角を等しくなる点」が少しわかりにくくなるので注意。

作図の注意
特にマス目がないときは難しい

なので、以下のように先に像を描いてしまえば自動的に「入射角 = 反射角」となって便利です。マス目がなくても楽勝です。

鏡の中の像を作図する順番

物体が鏡に映る位置/映らない位置も分かる

この作図ができれば、「物体が鏡に映るのか映らないか」もすぐ分かるようになります。


例えば以下の図では、物体は鏡に映りません。

鏡に映らない図

「入射角 = 反射角」となるような点に、鏡がありません。もう少し鏡に近づくなどして、物体が映るように工夫する必要がありますね。

鏡にギリギリ映るポイント

👆のように、目を1マス分近づければギリギリ鏡に映ることになります。

鏡に自分が映る理由

では次に、「鏡に自分が映る理由」を作図で理解できるようになりましょう。

鏡に映る自分作図

体の一番上と下だけを考える

本来は、無限の光が体で乱反射し、鏡にぶつかっています。


しかし作図する場合は、

  • 体の一番上(頭頂)
  • 体の一番下(つまさき)

の見え方だけを描けば、十分に体全体の鏡の映り方が分かります。

鏡の一番上と下だけを考える

頭頂部が映る場所を作図する

基本は先程の作図と全く同じ。


まずは、「頭頂部と鏡」と同じ距離だけ離れた部分に、鏡の中の頭頂部を描き入れます。

頭頂部が鏡に見える場所

次に、鏡の中の頭頂部の点から目に向かって線を引いてみましょう。

鏡の中に映る自分作図

これで自分の頭頂部が映る位置の作図ができました。この手順で作図すれば、入射角と反射角は等しくなっているはずです。

鏡と光作図
頭頂部が鏡で見える光の道すじ
実際に「頭頂部が鏡に映る」ときの光の道すじ

つま先が映る場所を作図する

体の一番下である、つま先も同様に作図してみましょう。


つま先部分を、鏡の中に描き入れます。

つま先を鏡の中に描き入れる

次に鏡の中のつま先から、目に向かって線を引きましょう。

鏡の中作図

あとは、つま先から鏡に向かって線を引けば、自然に「入射角 = 反射角」となっているはずです。

鏡の中の自分作図

鏡の中の自分の作図完成

体の一番上と下が作図できたので、あとは絵のセンスを活かして、鏡の中の像を描いてあげるだけ。

鏡の中の自分作図

光の反射により、鏡の向こうの自分が見えてしまうわけですね。鏡の中に自分はいるはずないんですけどね。

実物を見るときと、鏡の像を見るときの違い

さて、今まで光と鏡の像について説明しましたが、ここからはもっと厳密に考えてみましょう。



作図では、以下のように物体から出る一本の線だけを考えていました。

鏡にうつる像の作図

しかし厳密に考えると……、物体は光を乱反射しているので、物体からは無数の光が出ているはずですよね。


そのうちの、鏡で反射し、目に入る2本の光線を適当に描いてみます。

2つの光線をピックアップ
もちろん、入射角と反射角は同じように描かないとダメ

目は、この2本の光が反射して届いたものだとは知りませんよね。直進してきたのと同じように感じます。


すると目は、「光が来た出発点」を、「光を延長させて交わった点」だと認識してしまうのです。

鏡の中の像が見える位置
「この複数の光の出発点は、あそこに違いない」

目は、上図のような点線をたどって来たのだと勘違いします。


つまり私たちの目は、以下の図の①と②を区別できないのです

鏡や水面に物体が映る理由
  • ①…乱反射した光によって物体を見るとき
  • ②…鏡面反射した光によって鏡の中に物体が見えるとき

目は「光は直進している」としか考えないので、


「この光の出発点はここじゃないかな?」


と考えて延長線(点線)を勝手に想像し、ありもしないリンゴを見てしまうのですね。

鏡に物体が見える理由

逆さ富士が見える理由も、厳密には以下のような図になります。

逆さ富士が見える理由の厳密な説明

光は無数に出ていますが、説明のためには2本だけを描けば十分です。

目は、光の出発点を探すことで、物体の位置を把握しているのです。

虚像(バーチャルイメージ)を “魅せられる” 私たち

この回では、

  • イソップ物語のバカな犬
  • 水の中に富士山が見えること
  • 鏡に自分が見えること

など、「実際にはないものが見える」不思議な現象を学びました。

虚像を見せられる私たち

しつこいようですが、これも全て「目が光の出発点を勝手に想像してしまうこと」が原因です。

虚像(バーチャルイメージ)と実像(リアルイメージ)

もう一度、

  • 本当のリンゴを見たとき
  • 鏡に映ったリンゴを見たとき

の違いを確認しましょう。

実像を見る時、虚像を見る時

①では、実際にリンゴから光がやってきています。


しかし②では、「こららの光は、点線の道すじから来たのだろう」と勝手に出発点を想像しただけ。その出発点に、実物はない。


②のような勘違いにより見える像のことを、虚像(virtual image, バーチャルイメージ)といいます。バーチャルとは「仮想」、つまり「本当はないのに……」という意味です。


反対に、①のように実際にある物体を実像(real image, リアルイメージ)といいます。リアルとは「現実」、つまり「本当にある」という意味です。

虚像(バーチャルイメージ)と実像(リアルイメージ)

私たちは毎日毎日、鏡や水面に映った自分を見ます。


これは、光によって騙され、毎日毎日虚像(バーチャルイメージ)を見せられているということ。ありもしないものを、見せられています。


しかし……、こんなに美しく、私たちを魅了する逆さ富士。

山中湖からの富士山

だから本当は、「人間は、虚像に”魅せられている”というべきかもしれません。


虚像が見えることを幸せに思って、今はとにかく、富士の虚像に魅せられましょう

おすすめ参考文献

参考になった書籍

イソップ寓話集 (岩波文庫)

『イソップ物語』として知られる、子供も大人も楽しめる寓話集。岩波文庫は翻訳が少し格式高いのですが、一つ一つはほんの数行の話なので苦にならずスラスラと読めます。


今回は「肉を運ぶ犬」の話を紹介しました。1話1話の中に、痛烈な批判や皮肉が込められています。現代の大人が読んでも納得し、うなる話はたくさんありますが、これが全て2500年以上前のギリシャの奴隷アイソーポス(イソップ)によって書かれたとなると、驚きを隠せない、なんとも不思議な気持ちになってしまいます。

参考になったビデオ

Specular and diffuse reflection | Geometric optics | Physics | Khan Academy

Khan Academyの動画。字幕に日本語がなく残念ですが、山が湖面に映る理屈が丁寧に解説されています。

Virtual image | Geometric optics | Physics | Khan Academy

これもKhan Academy。虚像(バーチャルイメージ)の解説ビデオですが、虚像の本質は「実際にはない光の出発点を想像してしまうこと」であることに気付かされます。


こちらも日本語字幕はありませんが、関心ある方はぜひ観てみてください。

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