【溶解度曲線】を通して、科学の方法論を学ぶ

溶解度曲線を通して科学の方法論を学ぶ 中1理科

優秀な人たちは、自分が疑問に思ったことを調査し、他人が分かりやすいようにまとめて発表します。


今まで出てきた偉大な学者たちも、自分たちの発見を、誰もが理解できるような分かりやすい論文にまとめて発表しています。


だからこそ、彼らの発見に高い価値があるのです。

研究結果を分かりやすく伝える科学者
難しい研究結果を、分かりやすく表現する科学者

彼らはどんな方法で、研究を分かりやすく発表しているのでしょうか?


その方法はとてもシンプルな3段階に分かれています。

  1. 実験して数値を記録
  2. グラフにして表現
  3. グラフの意味を読み取る

この3つを意識するだけで、素晴らしい発表に近づきます。

研究結果を分かりやすく発表する方法

今回は、そんなスゴイ科学者たちの方法論を「水は、いろいろな物質をどれくらい溶かすのか?」を調べることを通して学んでいきます。

物質を水に溶かし、性質を調べてみる
いろんな物質は、水にどれくらい溶けるのだろう?

今回を通して、科学者が知っている3つの方法を習得できますよ!

💧 物質が水に溶ける限界量を調べる

昔の人々は、「なぜ、物質が水に溶けると見えなくなるのだろう?消えてしまったのか?」と不思議に思っていました。

溶質が溶けることで見えなくなる

もちろん、粒がバラバラに広がっているだけで、消えたわけではありません。水が溶質の粒を取り込んだからこそ、見えなくなってしまったのです。


従って、水が物質を溶かす量には限度があります。ある一定量以上を溶かすと、水はもはやその粒を取り込めず、そのまま水が濁ったり、時間が経つと下に溜まってしまいます。

物質が水に溶ける量には、限度がある

水は、無限に物質を溶かすわけではありません。


では、世界中にある様々な物質。これらの「水が物質を溶かす限界の量」はどれくらいなのでしょうか?

👩‍🔬 実験し、物質の溶解度を記録する

まずは科学者の方法論の1つめ、「実験して数値を記録」するところから!

実験して数値を記録

今回はまず、硝酸カリウムで考えてみます。

硝酸カリウム
硝酸カリウム

硝酸カリウムは、鉱石として鉱山から採取できる物質です。


農業の肥料や保存のための食品添加物防腐剤火薬など、気づきにくいですが私たちにとっても身近な物質です。


神経を鎮める作用もあるので、知覚過敏を防ぐための歯磨き粉にも入っています。

硝酸カリウムを使うシュミテクト

さて、物質を水に溶かす実験をしましょう。実験結果は、以下になりました。

  • 硝酸カリウムは、水100gには最大で 31.6g が溶けた
  • 31.6g を超えて溶かすと、その分は溶け残りが出た
硝酸カリウムは、100gの水に31.6g溶けた
31.6g溶かすと、硝酸カリウム水溶液は131.6g になる

飽和水溶液

実験の結果、100gの水に溶ける硝酸カリウムの限界量は、31.6g であることが分かりました。


このように、「限界まで溶けた」ことを、飽和(ほうわ)したと言います。


これ以上の硝酸カリウムを溶かすことはできないので、100gの水に31.6g の硝酸カリウムを溶かした水溶液は、飽和しているといえます。


飽和した水溶液は、そのまま飽和水溶液と呼びます。

飽和水溶液
普通の水溶液と、飽和水溶液

もし手っ取り早く飽和水溶液を作りたい場合、とにかく溶け残りが出るまで物質を水に溶かしましょう。

物質が溶け残るということは、その水溶液がすでに飽和しているからです。

溶け残るということは、飽和していることを意味する
混ぜても溶け残るなら、それはすでに飽和水溶液

溶解度

これで硝酸カリウムの性質が少し理解できました。100gの水に溶かした時、31.6gで飽和する物質があれば、それは硝酸カリウムに違いありません


このように、100g の水に溶ける質量の限界のことを、溶解度(ようかいど)といいます。

硝酸カリウムの溶解度は31.6だ

実験により、硝酸カリウムの溶解度が分かりましたね。31.6。

水温を変えてみたら……?

「よし、硝酸カリウムの溶解度が分かったぞ、実験終了!」……


皆が既にご存知のように、ブラック、プリーストリ、ハーバー、ラヴォアジエなど、世界を変えてきた化学者(錬金術師)たちは、これだけで満足するわけがありません。

ラヴォアジエ夫妻
ラヴォアジエ夫妻は、決して真理の追求をやめなかった

「水を熱して、水温を変えても溶解度は同じだろうか?」と疑問に思うのが化学者です。


先ほど「硝酸カリウムの溶解度は31.6だ!」と判明したのは、あくまでも水温が20℃の常温の水です。


実験を進歩させて、0℃まで冷やしたり、逆に熱して、30℃、40℃…と徐々に水温を変えて溶解度を計測すると、スゴイ発見がありました。

溶解度は水温により変化する

実験の結果…、水100gを0℃まで冷やすと13.9g しか溶けませんでしたが、60℃まで熱すると106g まで溶かすことができました。


先ほどは、「硝酸カリウムの溶解度は31.6だ」と言っていました。


しかし、溶解度は水温によって変化するので、正確には「硝酸カリウムは水温20℃のとき、溶解度が31.6だ」と言わなければなりませんね。

硝酸カリウムの溶解度
水温により溶解度は変化する

硝酸カリウムの場合、20℃の水100gに31.6g が溶けていれば飽和水溶液です。


しかし、それを熱して30℃にするだけで、それはもはや飽和水溶液ではないことに注意!!

硝酸カリウムの飽和水溶液温度
水温が高くなると余裕が出る

硝酸カリウム以外の物質も、溶解度を調べてみましょう。

ミョウバン

ミョウバンも、天然の鉱石から産出する物質で、古くは衣類の染料として利用されていました。


とても需要のある大切な物質で、15世紀頃にはトルコやイタリアが主な産出地となり莫大なお金を手にしていました。

ミョウバン

そのミョウバンの水温と溶解度の関係を調べると、以下のようになりました。

ミョウバンの溶解度の変化

ミョウバンは、0℃の水100gには5.7g しか溶けませんが、水を熱して60℃にしてやると、なんと57.5g も溶けます。

塩化ナトリウム

毎日食べている、最も身近な塩化ナトリウム(食塩)についても学びましょう。


塩化ナトリウムの水温と溶解度の関係を調べると、以下のようになりました。

塩化ナトリウムの溶解度の水温ごとの推移

塩化ナトリウムは、0℃の水100g に35.7g 溶けていましたが、100℃まで熱すると39.0g 溶けました。

例えば、20℃の水100gの場合、塩化ナトリウムの溶解度は35.9。


この飽和水溶液は、溶液が135.9g で、溶質が35.9g。


計算すると、この塩化ナトリウム飽和水溶液(食塩水)の質量パーセント濃度は、約26%

飽和水溶液の質量パーセント濃度

したがって、水温20℃の場合、塩化ナトリウムの最大の質量パーセント濃度は約26%です。


例えば水温20℃で「質量パーセント濃度30%の食塩水」は作ることは不可能

📈 溶解度の変化を表すグラフを作る

実験が終わり、「どうやら、水温によって溶解度は変化するようだ」という驚く事実が明らかになれば、それをもっと分かりやすい形で発表する必要があります。


これが、科学者の方法論の2つめ「結果をグラフで表現」です。グラフで表し、皆が分かりやすい形にすることが、実験の価値を高めます!

結果をグラフで表現

硝酸カリウムの溶解度曲線

まず、硝酸カリウムの溶解度の変化の表をもう一度確認しましょう。

硝酸カリウムの溶解度の変化

横軸に水温を、縦軸に溶解度をとったグラフに書き記してみましょう。

硝酸カリウムの溶解度の変化をグラフに記す
丁寧に点を取っていく

一つ一つ取った点を、一本につなげて作図しましょう!繋げてできた曲がった線、これを溶解度曲線と呼びます↓

硝酸カリウムの溶解度曲線を作図する

これで、硝酸カリウムの溶解度曲線が完成しました!


溶解度曲線を作図することで、

  • 硝酸カリウムは、水にどれだけ溶けるのか
  • 温度により、どれだけ溶ける量に差ができるのか

などが一目瞭然です。グラフを作図することで、物質の性質を分かりやすく伝える効果があります。

硝酸カリウムの実験結果と溶解度曲線
グラフは、実験結果(データ)を分かりやすく表現する

ミョウバンの溶解度曲線

この調子で、記録した表を使い、ミョウバンの溶解度曲線も作図します。

ミョウバンの溶解度の変化

ミョウバンの溶解度曲線を描いてみました。

硝酸カリウムとミョウバンの溶解度曲線

塩化ナトリウムの溶解度曲線

最後に、身近な塩化ナトリウム(食塩)の溶解度曲線を描きましょう。

塩化ナトリウムの溶解度の水温ごとの推移

↑の表をもとに、溶解度曲線を描いてみました。

硝酸カリウムとミョウバンと塩化ナトリウムの溶解度曲線

📝 溶解度曲線を使い、物質の性質を読み取る

実験で明らかにした溶解度の数字をグラフで表現することで、物質の特徴がひと目で理解できるようになりました。


グラフに表した後は、科学者の方法論の3つめ「グラフの意味を読み取る」です。グラフが意味することを考え、言葉で表現してまとめます。

グラフの意味を読み取る

以下に、グラフから読み取れることをまとめてみました。

溶解度曲線からは、

  • 「硝酸カリウムとミョウバンは、水温による溶解度の変化が大きい
  • 「塩化ナトリウムは、水温による溶解度の変化が少ない」

ことが読み取れます。


この硝酸カリウムとミョウバンをたくさん水に溶かしたければ、どんどん水を熱すればよいのです。(ミョウバンの方が、急激に溶ける量が増えていますね)


逆に、塩化ナトリウムは水を熱してもあまり溶ける量が増えない、ことが溶解度曲線から読み取れます。


他にも、「10℃の水なら塩化ナトリウムが一番溶けるが、30℃では硝酸カリウムが一番溶ける」…など、グラフはたくさんのことを分かりやすく教えてくれます。

今回のような、

  1. 実験して数値を記録
  2. 結果をグラフで表現
  3. グラフの意味を読み取る

この3点セットが自分でできるようになれば、あなたは立派な科学者です!

科学者は図を見せて納得させる
科学者の研究発表/講演会

科学者は現代でも、こんな形で実験結果を分かりやすく発表し、世の中を進歩させているのです。

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