イギリスのロバート・フックは、「バネの伸びと力の大きさは比例する」というフックの法則を発見しました。
フックの法則にしたがえば、例えば100g(1N)のおもりで2cm伸びるバネは、200g(2N)のおもりを吊るすと4cm伸びることになります。
フックの法則 | |||||
力の大きさ | 1N | 2N | 3N | 4N | 5N |
バネの伸び | 2cm | 4cm | 6cm | 8cm | 10cm |
これは、バネを寝かせておもりを吊るしても同じように考えることができます。どにらも、バネに1Nの力が加わっていることに変わりなし(ただし、シンプルに考えるためバネ自身の重さは無視)。
では、このバネの両端に100gのおもりを吊るしたとします。この場合、バネは何cm伸びているのでしょうか?
両端に100g (1N)、つまり合計200g (2N)なので、フックの法則にしたがい、バネは4cm伸びているのでしょうか?
今回はこの問題について考えます。
この問題を解くための大きなヒントは、ニュートンが『プリンキピア』で書き残した、
静止している全ての物体は、そこに力が働かない限り、静止し続ける
『自然哲学の数学的諸原理』の「静止」関してのみ抜粋
という考え方、つまり力のつり合いについての知識を使うことです。
🙈 見えない力に気づくことができるか?
バネの両端を1Nの力で引っ張った時を考える前に、まず片方だけに1Nの力をかけたときを考えます。ニュートンも、「物理学を考えるときは、まずシンプルに考えること」と言っています。
このときこのバネは2cm伸びるわけですが、ちょっとよく考えてみましょう。もしこのバネが壁に固定されていなかった場合はどうでしょう?
壁に固定せずに1Nの力で引っ張っても、バネ全体がずるずる引きずられるだけで、バネは伸びないはずです。
だとすると、「このバネは、1Nの力で引っ張れば2cm伸びる」という言い方は、少し正確ではないことになります。
片方だけ引っ張っても、ひきずられるだけでバネは伸びないからです。
隠れていた力とは?
そう、バネの片方だけに力を加えても、引きづられるだけでバネが伸びることはありません。バネが伸びるのはあくまでも、バネの両端から引っ張った時だけです。
ガリレオやニュートン、フックのような優れた科学者は、きっとこのとき、隠されていた力の存在に気づくはずです。
「バネが伸びるのは、バネの両端から力を加えたときだけである。ということは、天井や壁も、バネを引っ張っていたのではないか?」
全くその通りです。
物体が静止する理由である「2つの力のつり合い」を思い出しましょう。バネは静止しているのだから、バネに働く力はつり合っているはずだ!と考えることができます。
実は、バネが伸びているとき、以下のような力が働いています。
- 天井に吊るしたバネを1Nで引っ張ったなら、天井もバネを1Nで引っ張っている
- 壁に固定したバネを1Nで引っ張ったなら、壁もバネを1Nで引っ張っている
フックの法則を学んだときは、「1Nの力を加えると、2cm伸びるバネがある」といった言い方をしていました。
しかし厳密に考えると、「両端から1Nの力を加えると、2cm伸びるバネがある」といった言い方が正確です。
この気づきにくい、壁や天井からの力の存在が分かれば、物理学(力学)に関する理解が一段と深まったことになります。
簡単に考えるため、「バネに働いている重力」は考えません。つまり今回は、バネ自体の重さを考えません。
これから物理の理解が深まれば、重力などいろんな力を含めて考えられるようになります。
どこに、どんな力が働いているのかを見極めること
ここで、最初に挙げた問題についてもう一度考えましょう。
隠された力を発見した今は、以下の3つの状況がほぼ同じ状況であることが分かります。バネは伸びたまま静止しているのだから、バネに働く力はつり合っているはずです。
したがって、このバネが伸びるのは2cmです。4cmではありません。
🏋️♀️ バネにかかる力を見極めるトレーニング
物理学を学んでいくには、物体に働く力の向きや大きさ、作用点を正確に捉える必要があります。
バネに働く力を考えることが非常に有効なトレーニングになるので、少し複雑な事例を考えていきます。
以下の問題で考えるバネは、バネの伸びと力の大きさの関係が以下のようなバネであるとします。つまり、1Nの力で5cm伸びるバネです。
※以下では全て、バネ自身の重さは考えないものとします。
おもりの繋がったバネを持ち上げる
1Nの力で5cm伸びるバネの一方に、300gのおもりを繋げています。このバネを、おもりのついていない方からゆっくりと持ち上げて、おもりと共に空中で静止させました。
このとき、バネは何cm伸びているでしょうか?質量100gの物体に働く重力は、1Nとして考えます。
バネは静止しているのだから、バネに働く力はつり合っているはずです。
まず、バネに働いている力を丁寧に考えます。バネに働いている力は、
- ひもがバネを引く力(3N)
- 手がバネを引く力(3N)
だということになります。厳密に考えると、「地球がバネを引く力(重力)」もありますが、シンプルに考えるため無視します。
これは、天井に吊るしたり、壁に固定した状態と全く変わりません。天井や壁が手に変わっただけですね。
したがって、両端に1Nの力を加えると5cm伸びるバネに、両端から3Nの力を加えたわけだから、フックの法則によりバネは15cm伸びていることが分かります。
2つ繋がったバネ
1Nで5cm伸びるバネを2つつなげて天井に吊るし、一番下に400gのおもりをつけました。100gにかかる重力を1Nとして考えます。
この場合に、2つのバネ合わせて何cm伸びているのでしょうか。シンプルに考えるため、バネ自体の重さは考えないこととします。
バネは吊るされて静止しているので、それぞれのバネに働く力はつり合っているはず。まず、下のバネについて考えます。
下のバネにかかっている力は、
- おもりが下のバネを引く力 (4N)
- 上のバネが下のバネを引く力 (4N)
の2つ挙げられます。「地球が下のバネを引っ張る力(重力)」なども考えられますが、今回はシンプルに考えるため、バネ自体の重さは無視。
この結果、下のバネには両端からそれぞれ4Nの力がかかっていることが分かります。したがって、下のバネは20cm伸びていることが分かります。作用点と矢印を正確に描きましょう。
続いて上のバネを考えます。上のバネにかかる力は、
- 下のバネが上のバネを引っ張る力 (4N)
- 天井が上のバネを引っ張る力 (4N)
です。今回はバネの重さは考えません。
その結果、上のバネにも両端それぞれ4Nの力がかかっていることが分かります。したがって、上のバネも20cm伸びていることになります。
なので、1Nで5cm伸びる2つのバネをつなげて4Nのおもりを吊るした場合、それぞれ20cm, 合計で40cm伸びます。
もちろん、バネ自身の質量を考えないのであれば、以下の①と②も同じ状況と考えることができます。どちらもバネ2つ合計で40cm伸びます。
平行に繋げたバネ
次に、このバネを並行に並べて天井に吊るした場合を考えてみます。400gのおもりを吊るされたバネが静止しているとします。
2本のバネは静止しているので、それぞれのバネに働いている力はつり合っています。
それぞれのバネにかかる力ですが、4Nのおもりを2つのバネで支えるので、それぞれのバネには2Nずつの力がかかります。
それぞれのバネは静止しているので、天井からそれぞれ2Nで引っぱられています。
したがって、それぞれのバネには両端に2Nの力がかかっていることになります。バネは1Nのおもりを吊るすと5cm伸びるので、それぞれのバネは10cm伸びていることが分かります。
力のつり合いについて学んだときは、「こんな簡単で当たり前のこと、何の役に立つのだろう」と思ったかもしれません。
しかしニュートンの第一法則は、「物体が静止しているということは、他にも隠された力があるはずだ!」といった重要なことに気づかせてくれる、とても大切な物理学の知識です。
これから物理学を学んでいくと、さらに楽しく詳しく理解できるようになります。
📚 おすすめ参考文献
📖 参考になった書籍
・発展コラム式 中学理科の教科書 改訂版 物理・化学編 (ブルーバックス)
中学理科の教科書で触れられる部分は、基礎から応用事例までこれ一冊でだいたいは網羅できます。『生物・地球・宇宙編』もあります。
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