重さ100倍、質量は同じ。普通は即死、孫悟空の修行

重さと質量の違い 中1理科

孫悟空といえば、世界中で愛される日本の漫画『ドラゴンボール』の主人公です。サイヤ人の彼は地球で育ち、子供の頃から強い敵と戦い、何度も地球を救ってきました。

孫悟空
悟空の子供のころ

大人になった悟空はあるとき、最強の宇宙人フリーザを倒すため、宇宙船に乗ってナメック星に向かいます。地球からナメック星までは、宇宙船で1週間かかります。

スター・ウォーズのファルコン号
これはスター・ウォーズのファルコン号だが、悟空もこんな感じの宇宙船に乗ってナメック星に向かった

フリーザを倒すためには、ナメック星に到着するまでの間に猛特訓して少しでも強くならなければなりません。そこで悟空は宇宙船の設計者に頼み込み、「重力を自由に操作できる重力室」を宇宙船に作ってもらいました。


この重力室があれば、部屋の重力を地球の10倍にしたり、最大地球の100倍にまで強くすることができ、かなりのハードトレーニングができるからです。

悟空が修行した重力室イメージ
重力室イメージ図。地球上より強い重力がかかる

重力が100倍ということは、普段の100倍の力で地面に引きつけられるということです。


例えば普通の階段は、1段で約25cmです。階段をたった1段だけぴょんと飛び降りてみたとしましょう。重力100倍の環境では、なんと100倍の2,500cm、つまり25mから飛び降りたのと同じ衝撃です。


階段1段飛び降りただけで、ビルの8階くらいから飛び降りるのと同じ衝撃。こんな重力室に1秒でもいたら、普通の人間なら絶対に死にます。

銀座和光
銀座和光が7階建て、高さ30mくらい。時計を入れると39m。

この過酷な環境で一人、フリーザを倒すための修行を積んだ悟空。腕立て伏せから始め、最後はとうとう修行を終え、100倍重力の中で、自分が投げた石に走って追いつきキャッチするほどの成果を見せました。

重力室と悟空

100倍の重力にも見事に耐え、ナメック星に到着した悟空。果たして宇宙の帝王フリーザを倒し、仲間を助けることができたのだろうか?知らない人はドラゴンボールの漫画を読んでください。

🐒 悟空の重さと質量

重力が100倍とは、地球にいるより100倍の力で体が地面に引っ張られるということ。つまり重力100倍にセットした宇宙船で体重計に乗ると、地球のときより100倍の数値が出るはずです。

重力100倍の重さ

体重計の原理はそもそも、フックの法則を利用しています。バネの伸びは力の大きさに比例するので、人が乗ったときの力の大きさを、バネの伸びにより判断しているのです。だから重さとは、下向きの力のこと。つまり、単位はN(ニュートン)。

重さとは力である

いつものように、地球上の100gの物体にかかる重力の大きさを1Nとしましょう。悟空の体重は約60kg(60,000g)らしいので、地球では悟空の重さは600N。つまり普段は、600Nの力で地面に引きつけられています。


しかし、この宇宙船で重力を100倍にすると、100gの物体にかかる重力が100倍の100Nになります。すると、なんと悟空は60,000Nの力で地面に引っ張られることになります。つまり、悟空の体は100倍重くなったのです。

100倍重力での悟空の重さ
悟空は急に自分の体が100倍重く感じる

地球にいるときよりも自分の体が100倍重くなるということは、60kgの悟空は6,000kg (6t) になったように感じるということ。

重さと質量の違い

物理学においてここで理解すべき大切なことは、「悟空は100倍重くなったが、悟空の質量は全く変わっていない」ということです。


重さとは、下向きに働いている力だから、単位はN(ニュートン)。だから重力が100倍なら、重さも100倍。


一方、質量はどうでしょう。質量とは、物体の量のことです。例えば悟空の質量は、悟空の血や骨や筋肉など全てを合わせた物質の量を表します。

重さと質量の違い

質量は、100倍の重力室にいても変わりません。重力が変わっても、悟空の筋肉や血液が急に増えたり減ったりしないからです。


100倍の重力室では、

  • 悟空の重さ…100倍になる
  • 悟空の質量…変化なし

となります。

重さは変わっても質量は変わらない

質量の単位は g(グラム)

重さの単位はN(ニュートン)ですが、質量の単位はg(グラム)です。1000gは1kg(キログラム)です。この質量は、人なら筋肉や血液、果物ならば果実や種など、物質の量を表しています。


従って質量の単位 g や kg は、100倍の重力室であろうが地球であろうが、全く変化がありません。

単位場所や環境で
質量g (グラム)変化しない
重さN (ニュートン)変化する

よく、「このリンゴの重さは300g」のように言いますが、厳密にいえば、gは重さの単位ではなく質量の単位だから、「このリンゴの質量は300g」と言うべきなのです。

gは質量の単位
日常生活では厳密にならなくてもよい

🏋️‍♀️ 重さは変わる、質量は変わらない

もう一度、重力室に話を戻します。地球と同じ重力で、質量60kgの悟空が手に300gのリンゴを持っているとしましょう。すると、それぞれの質量と重さは以下のようになります (質量100gの物体にかかる重力を1Nとする)。

悟空とリンゴ

重力を10倍にしたとき

重力室を10倍にしたときの、それぞれの質量と重さは以下のようになります。

重力10倍での質量と重さ

重力を20, 50, 100倍にしたとき

もっと重力を高めて厳しい修行をするときの質量と重さを、以下の図でまとめました。

重力が増えたときの質量と重さ
悟空もリンゴも、質量はずっと同じ

重力100倍の場合、悟空の重さは100倍の 60,000N になっています。地球上で 60,000N の重さになるものは、6000kg (6t) の物体です。大きなアフリカゾウや、10kgの米俵600個に相当します。

アフリカゾウ

しかし重さがそこまで変わっても、質量は全く変わらないことが理解できるはずです。変わったのは重力室の重力であり、悟空の体やリンゴの量は増えたり減ったりしません。

🌕 月面上での重さ

宇宙に目を向けてみましょう。ニュートンは「人類の宝」とも言われる物理学の聖典『自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア)』にて、宇宙にある物体すべては引力を持っていることを証明しました。これがニュートンの天地統一です。


そして、その物体が持つ引力の強さを表す公式も作ることに成功しました。

万有引力数式

ニュートンが記したこの式を使えば、月面上において働く重力の強さが分かります。

月の重力は地球の約1/6

その計算をすると、簡単に月の重力の強さが分かります。月の重力は、地球の1/6(6分の1)になることが分かっています。月は地球よりも小さくて軽いので、重力も小さくなります。

地球と月の重力の違い
  • 地球にある100gの物体→ 約 1Nの重さ
  • 月にある100gの物体→ 約 1/6N(0.167N)の重さ

つまり、地面に引きつけられる力が地球の1/6しかありません。したがって、月面に着陸するとフワフワした感覚になるはずです。この感覚は人類史上、アポロ計画で月に着陸した宇宙飛行士しか知りません。

月面着陸した宇宙飛行士
重力(地面に引っ張られる力)が弱いのでフワフワしているはず

体の重さもリンゴの重さも、月では全ての物体が地球の1/6。


もし悟空が重力室でなく月面に着陸したとすると、悟空とリンゴの質量と重さは以下のようになります。

月面における重さと質量

もちろん、体やリンゴ自体には何の変化もありません。質量は同じです。


ニュートンが万有引力の式を構想したのは1665年、22歳のとき。人類が初めて月に着陸したのは1969年。

月面着陸を成し遂げる300年も前に、ニュートンは数学だけを使い、月の重力を計算できていたのかもしれません。アポロ計画の月面着陸も、ニュートン物理学なしでは絶対に不可能でした。

📏 重さと質量、それぞれの計量方法

  • 重さ…重力が変われば変化する
  • 質量…重力が変わっても変化しない

この2つの違いが大切です。2つが別物である以上、計測方法もそれぞれ異なります。

重さ(N)を量る「ばねばかり」

しつこいようですが、重さとは下向きの力のことです。これを量るためには、ばねばかりを使います。

ばねばかり

フックの法則の通り、バネの伸びは力に比例します。金属でできたバネに重さを知りたい物体を吊るし、バネが何cm伸びたかを知るだけで重さ(力)を知ることができます。

フックの法則

1Nの力を加えると0.5cm伸びるバネを入れたばねばかりがあったとします。ある箱を吊るすと12cm伸びたとすれば、その箱の重さは60Nであることが分かります。


ばねばかりはこの原理を利用して、物体の重さを量ります。

ばねばかりの原理
ばねばかりが重さを量る原理

宇宙船に乗り、その箱を月に持っていったとします。月では箱にかかる重力は1/6になるので、バネを引っ張る力も1/6。


すると地球では12cm伸びたバネが、月では2cmしか伸びません。だから箱の重さは10Nに変わります。

ばねばかりは重さを量ってくれる
箱の重さは、地球上と月面で変化する

ばねばかりは、場所や環境により変化する重さを教えてくれます。

質量(g)を量る上皿天秤

質量は、重力室であろうが月面であろうが不変です。ある箱があったとして、その質量を量りたい場合は普通、上皿天秤を使います。

上皿天秤
上皿天秤

上皿天秤には、質量が分かっているいろいろな分銅があります。箱と1200g分の分銅がつり合ったならば、その物体の質量は1,200gです。

上皿天秤と質量

もし箱と上皿天秤を月に持っていって量っても、重力の影響は箱と分銅どちらも受けているので、同じく箱は分銅1200gとつりあい、箱の質量は 1200g であることが分かります。


上皿天秤を使って分銅と共に量ることで、

  • 地球
  • 重力室

など、どこへ行っても変わらない質量を知ることができます。

地球と月で結果が変わらない上皿天秤

🏃‍♀️ 体重計は重さを量り、質量を表示する

体重計にはバネが仕組まれており、人が乗ったことにより受ける力を計測しています。以下の図のように、Aの位置に人が乗り、その力によってCのバネが伸びる仕組みです。

体重計の仕組み
Inside a Bathroom Scale

つまり体重計の原理は、ばねばかりと全く同じ。

体重計は「質量」ではなく「重さ」を量る

体重計はばねばかりと同じ原理を利用しているので、体重計は「重さ」を量れても「質量」を量ることはできません。

体重計はばねばかり
ばねばかりは 重さ(N)を量るもの

体重計は「質量」を表示する

しかし体重計はいつも「kg」で表示しているはずです。したがって、重さを量っているはずの体重計は、質量を表示していることになります。

質量を表示する体重計
体重計は質量を表示している

私たちは体重計を使うとき、地球や月、重力室で変わるような重さを知りたいわけではありません。脂肪や筋肉が増えたのか減ったのか、どこへ行っても変わらない身体自体の変化が知りたいはずです。


そこで、「地球上では、1N は 100g の物体にかかる力である」という知識を利用し、わざわざ kg に計算しなおして表示しているわけです。重さを量り、質量に計算して表示するのが体重計です

体重計は質量を表示する
体重計は直接に質量を量れない。重さから計算するしかない

📚 おすすめ参考文献

▶️ 参考になったビデオ

【ドラゴンボール】重力100倍の部屋で特訓した。実際にやるとどうなる?

空想科学読本のYouTube. 理科好きには本当に最高ですね。


本のシリーズもお勧めですよ。

空想科学読本 1 新装版

ジュニア空想科学読本 (角川つばさ文庫)

📱 参考になったページ

悟空でも不可避!?重力100倍でコケたら時速150kmで地面に激突する 上のYouTubeのテキスト版。面白い。

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