【焦点】アルキメデスの『死の光線』伝説と『フライパンビル』事件

焦点とアルキメデスの死の光線 中1理科

まず、この不思議でカッコいい絵を見てください!この絵は、ある伝説をイメージして描かれたものです。

アルキメデスの死の光線
Starcat Games twitter (画像引用にはクレジット購入が必要です)

……今から約2300年前、古代ギリシャにアルキメデスという天才物理学者がいました。『反射の法則』を書き記したユークリッドと同じ時代です。


アルキメデスは、神が生んだ数学/物理学の天才です。


物理学の知識を使って、どんな重い物でも簡単に動かす滑車など、様々な機械を設計した超有名人でした。

シラクサのアルキメデス
天才として語り継がれるアルキメデスは、地球を動かす自信もあった

したがってアルキメデスは、当時の王様に軍事科学者に任命されています。実はこのときアルキメデスの国には、強敵ローマ軍が攻めてくることが分かっていたのです。


「自分の国に、屈強なローマ軍が攻めてくる!」となれば、国を守るため、王様が天才アルキメデスの力を借りたくなるのも当然です。


王様はアルキメデスに、敵国のローマ軍を滅ぼすための兵器の開発を任せることにしました。

シラクサ王とアルキメデス
天才アルキメデスに国の防衛を依頼する王様

アルキメデスは数学と物理学の天才ですから、王様の期待に応えて次々と強力な武器を作り出しました。


その中でも最も有名なものが、冒頭の写真にある死の光線 (Death Ray)』です。

アルキメデスの死の光線
鏡で反射した太陽光により、ローマ軍の船が燃えている

アルキメデスの指示により、ギリシャ軍はたくさんの鏡を用意しました。


そして、その鏡で太陽光を反射させ、全ての反射光を敵の船に集中させたのです。


一点に集まった太陽光の熱は凄まじく、その熱によってローマの軍艦を燃やし尽くしてしまった……と言われています。まさに死の光線。

アルキメデスの死の光線
反射の法則を計算し、鏡を絶妙な角度で設置する
クレジット: Tablizer

ローマ軍を撃退したアルキメデスの実力は、2300年も経った今でも語り継がれる伝説です。

アルキメデスの死の光線

太陽光と鏡のコンビネーションによる凄まじい力に気づき、反射の法則を計算し、具体的に応用する兵器を発明してしまうアルキメデス。


彼は『死の光線』の他にも画期的な兵器を次々と作り出し、2万人のローマ大軍を恐怖に陥れ、2年間も足止めさせることに成功していました。


奮闘虚しく、最後にはローマ軍に敗れてしまいましたが、ローマの将軍はアルキメデスには強い尊敬の念を抱き、「我々は勝ったが、アルキメデスだけは殺すな!」と部下に命じていたと言われています。


しかし、ついに彼は、将軍の命令を無視したローマ兵に殺されてしまい、一生を終えることになりました。70代の老人であったと言われています。

殺されたアルキメデス
殺されたアルキメデス

彼は死ぬ間際にも数学のことを考えており、考えごとの邪魔をするローマ兵に激怒したのが最後の瞬間でした。


アルキメデス死去を知ったローマ軍の将軍は、深く悲しんだようです。

🏢『フライパンビル』が放った “死の光線”

太陽光でローマ軍を焼き尽くし、伝説となったアルキメデスの『死の光線』。


そんな死の光線の威力は、現代でも実感することができます。


例えば2013年、イギリスのロンドンにて、奇妙な事件が起こりました。暑い夏の日でしたが、

  • 駐車していた車が突然溶ける
  • カフェの外に敷いたカーペットが突然燃える

といった謎の現象が起こっていたのです。誰かが車を熱して溶かし、カーペットを燃やしたのでしょうか?

👆2013年のロンドンにて、突然溶けてしまった車

ロンドンの人々は驚き、恐ろしく思っていましたが……、犯人がすぐに判明しました。


犯人は、近くに建設されていたビルでした。

ロンドンのウォーキートーキービル
ロンドンにあるビル。表面が曲がった鏡のような、かわいい (?) デザイン:Colin

このビルは、光をよく反射するガラスで覆われており、鏡のような役割を果たしていました。


しかも曲がったビルのデザインであったため、太陽光がある地点に集中してしまう構造になっていたのです。

太陽光を一転に集めてしまう性質

運悪く、光が集中する場所に駐車していた車は溶け、カーペットは燃えてしまったというわけです。『死の光線』と全く同じ原理ですね。


このビルが発射する『死の光線』を使って、目玉焼きを作ることにも成功しています。

この事件から、このビルは一時期、フライパンビル(Fryscraper) とも呼ばれていました。

オリンピックの聖火採火式

4年に一度の世界的スポーツの祭典オリンピック。オリンピックは、アルキメデスが生きていた古代ギリシャで始まりました。

ソチオリンピック
ソチオリンピックの聖火

オリンピックで欠かせない聖火も、太陽光を集中させて生み出されています。

  • オリンピック開幕の数ヶ月前に、
  • オリンピック発祥の地、オリンピアの遺跡

にて聖火採火式を行います。へこんだ鏡(凹面鏡)で光を一点集中させ、自然の恵みの太陽光から採火します。

オリンピック前に行われる着火セレモニー
凹面鏡と聖火
へこんだ鏡は、太陽光を一点に集中させる

2020年東京オリンピックのための聖火採火式を、ぜひYouTubeでご覧ください。実際に、女性が光が集中する点を探し当て、聖火をつける様子が分かります (53:07から再生)。

Olympic Flame Lighting Ceremony Tokyo 2020

👆の儀式のように、ギリシャの遺跡で太陽光から生まれた火だけが、“聖火” を名乗ることを許されます。


さすがは、『死の光線』でローマ軍を焼き尽くした軍事科学者アルキメデスの出身国ですね。

  • アルキメデスの『死の光線』伝説
  • イギリスの『フライパンビル』事件
  • オリンピックの聖火採火式

この3つの話は、光を一点に集中させると、とてつもない熱を生み出せることを教えてくれます。

🔍光を屈折させ、一点に集める凸レンズ

「光を一点に集中させる」ためだけなら、何もアルキメデスの兵器やフライパンビルのような、巨大な建築物は必要ありません。



小さな凸レンズ(とつレンズ)を使うだけで、光を一点に集中させることができます。Amazonでいろんなレンズセットで2,000円くらいで買えます。

凸レンズ
凸(とつ)は記号に見えますが、漢字です

凸レンズとは、左右に膨らんだ形をした特殊なガラスです。変な形ですが、この形のおかげで、光の屈折を利用した面白い役割を果たしてくれます。



例えば、太陽光が平行に凸レンズに入射したとします。太陽光は、常に平行に入射します。

凸レンズ

すると、

  • 空気中からレンズに入るとき(凸レンズの左側)
  • レンズから空気中に出るとき(凸レンズの右側)

で2回光が屈折することになります。

凸レンズと屈折

一番上の光の屈折の様子を見てみましょう。いつもどおり、車をイメージします。


まず、右前のタイヤが沼地(凸レンズ)にはまるので、左前のタイヤがたくさん動き、進路が右に曲がります。

光と凸レンズの屈折

その後は、左前のタイヤが先に沼地(凸レンズ)を抜け出します。結果、また進路が右に曲がります。

光と凸レンズと屈折
凸レンズと光の屈折
屈折と同時に反射してることも忘れずに

凸レンズの中心を通る光は、垂直に入射するので何も屈折せず直進します。

凸レンズと光の屈折

凸レンズの下側を通る光の曲がり方も、同じように考えてみます。

凸レンズと光の屈折

🔥強い熱を生み出す、焦点

すると……、自然と光が一点に集まることに気づきます。

凸レンズにより一点に集まる光
凸レンズに光が入射する
https://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/lens/lens.htm

もちろん👇の図のように、光を右から当てても左から当てても、同じように光が一点に集まります。

左右にある焦点
  • アルキメデスの『死の光線』伝説
  • イギリスの『フライパンビル』事件
  • オリンピックの聖火採火式

の秘密はここにあります。光が一点に集まったときの、強い熱が原因です。


この「平行に入射した光が集中する点」は、物を簡単に焦がしてしまうため、焦点(しょうてん)と呼ばれています。

凸レンズの左右にある焦点
凸レンズは、左右に焦点を持つ

鏡は、光の反射により焦点を作り出しましたが、凸レンズは、光の屈折により焦点を作り出します。

反射と屈折で作る焦点

凸レンズの焦点部分に燃えやすいものを合わせ、火をおこす方法はアルキメデスの時代から現代にいたるまで、当然のように行われています。

凸レンズで火をおこす人
1658年に描かれた絵。晴れてさえいれば、レンズで火を起こせる

凸レンズを使って火を起こすことは、コツをつかめば難しくはないようです。

Fire Started with a Convex Lens
凸レンズで火をおこす写真
https://www.wildernessarena.com/food-water-shelter/firecraft/lighting-a-fire

だからこそ、例えば日光が当たる窓際に、凸レンズのように光を屈折させる物を置いてはいけません。鏡はもちろん、

  • ペットボトル
  • 金魚鉢
  • 花瓶
  • 虫眼鏡

などガラス製の物を窓際に置くと、太陽光を屈折させて焦点に光を集めてしまいます。


もし、焦点に紙やカーペットなど、燃えやすいものがあったら?これが原因で火事になった例がたくさんあります。

収れん火災

今すぐ家の中をチェックして、太陽光の当たる場所に、ガラス製の物やペットボトルがないか確認してください。

凸レンズの各種名称

焦点を簡単に作れる便利な凸レンズについて、今後のために様々な名称を覚えてしまいましょう。

光軸

凸レンズの中心と、焦点を通る真っ直ぐな線を、光軸(こうじく)といいます。

焦点と光軸

焦点距離

凸レンズの中心から焦点までの距離を、焦点距離といいます。

焦点距離

焦点距離は、凸レンズの材質や分厚さによってそれぞれです。

  • 特殊なガラス材質
  • 分厚いガラス

などは、光をよく屈折させます。したがって、焦点距離は短くなります。

凸レンズと焦点距離
下側の分厚いレンズの方が焦点距離は短くなる

次回は、カメラ虫眼鏡の仕組みを詳しく学びます。

  • 光の屈折
  • 凸レンズの焦点

を理解した今なら、カメラなど便利グッズの仕組みが深く分かります!

📚おすすめ参考文献

📖参考になった書籍

エピソード科学史〈2〉物理編 (1971年) (現代教養文庫)

科学をストーリーとして楽しく学びたい人には必須シリーズ。


この回では、軍事科学者としてのアルキメデスの話を参考にしました。


アルキメデスが鏡を使ってローマ軍を焼き尽くした伝説は本当なのか、もしくは後世の作家の作り話だったのでしょうか?


古い本ですが、ぜひ書籍でも読んでみてください。

▶️参考になったビデオ

Solar "Death Ray": Power of 5000 suns!

5800枚の鏡を合わせて、アルキメデスの『死の光線』を再現したビデオ。想像以上の威力!!!!


焦点に集まる熱は太陽5000個分の熱に匹敵し、

  • 鉄を溶かす
  • アルミニウムを気化させる
  • コンクリートを沸騰させる
  • 土を溶岩に変える

など、破壊力は抜群です (YouTubeの動画説明欄より)。


「死の光線なんて、作り話だ」という人もいます。しかしこのビデオを見れば、『死の光線』伝説を信じたくなってしまいますね。

📱参考になったページ

2.009 Archimedes Death Ray: Testing with MythBusters アメリカのエリート大学MIT(マサチューセッツ工科大学)がテレビ局と協力し、アルキメデスの『死の光線』伝説は本当なのか?作り話なのか?を検証してみた話。

一人でローマ軍二万を足止め!?シラクサの天才アルキメデスの防衛兵器 アルキメデスの凄さはもちろん、古代ローマについてよく分かる、素晴らしいサイトでした。興味あればぜひ読んで。

London’s ‘Fryscraper’ owners to spend millions of pounds to block building’s car-melting ‘solar death-ray’ 「フライパンビル」のニュース。太陽光が集中した地点の温度は、110℃を超えたようです。

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